放課後
――朝会が終わると、クラスの女子達が小夏に一斉に群がってきた。
隣の席の俺は退かされ、クラスの女子達からの好感度の高い涼太ですら、その席を明け渡していた。
さらには、騒ぎを聞きつけた隣のクラスの女子まで群がる異常事態となっていた。
小夏の周りは騒がしく、とてもじゃないが近づけない雰囲気だ。
「いくらなんでも騒ぎすぎじゃね?」
この異常事態に涼太が愚痴をこぼす。席を追いやられた俺たちは、仕方なく教室の隅の方で話をしていた。
「女子って周り見えてないよな~。もうちょっと大人しく出来ないものか?」
俺も、愚痴をこぼす。別に時間はいくらでもあるんだから、もうちょっとゆっくり仲良くなればいいのに我先にと群がるのは好感度下がるだろ、とは思う。
実際、隙間からわずかに見える小夏の表情はあたふたしており、困っている様子だ。
そんな様子も小動物じみているので、女子達にとっては逆効果で、さらに興奮している。
女子達の騒ぎ声はクラス中に響き、隅で話している俺達の声もかき消されるほどうるさい。
「いい加減うるさいし、先生呼んでこようぜ。」
「そうだな。」
騒ぎ声に我慢できなくなった涼太は俺に提案する。俺もさすがに我慢できなくなってきたので、賛成する。
先生を呼ぶため教室を出る間際、ふと隙間から映る小夏を見ると、落ち着かない様子でなんとなく泣きそうな顔をしていた。その表情を見て、俺は席に近づく。
涼太は一瞬制止しようとするが、小夏の様子が見えたのか、やれやれという顔をする。
「おい、そのくらいにしてやれ。」
席の周辺まで来た俺は近くにいた女子の肩をつかみ訴える。
「なによ!邪魔しないでくれる!?」
俺の手を払いのけ、一人の女子が睨みを効かせると、周囲の女子も俺に気づき、「文句あるの?」と言いたげに俺を睨んでくる。
「あのなぁ、東山さん困ってるだろ…。顔見てみろ。」
俺がそう言うと、きょとんとして女子達は小夏の顔を見る。小夏の顔を見てハッとした女子達は、
「ごめんねぇ!迷惑だったよね!」
と小夏に謝罪を述べると解散し、申し訳なさそうにそれぞれの席へと戻っていった。
小夏の方を見ると、トイレに行きたかったようで小走りで教室の外に向かった。去り際にこちらの方を見ると、何か小さく言葉を言い、お辞儀をした。
――その後は平和なもので、度々小夏の前に数人の女子が集まっては来たが、小夏の迷惑にならないように反応を見ながら丁寧な言葉のキャッチボールをしていた。
相変わらず小夏はこちらの顔を一切見ようとしないが、困っている様子はないので何よりだ。
それにしても、クールな印象の奈津美さんとはあまりにも正反対な感じだ。昨日のあれって演技だったのだろうか?
小夏が頑張ってクールなお姉さんを演じていたと考えると、やっぱり面白い。
小夏はそんな反応に気づいているのか、怒っている様子だったが、その反応さえも面白かった。
――キーンコーンカーンコーン。
いろいろあったが、なんやかんや放課後になる。今日は職員会議で部活が中止なため、女子達が小夏と一緒に帰ろうと話しかけてくる。
「ごめんなさい。今日はちょっと用事があるの。」
はじめこそオドオドしていた小夏だったが、放課後になると少しクールな雰囲気で女子達の誘いを断っていた。その様子はなんとなく頑張って演じている感じがして面白い。
と、小夏はそんな気配を感じ取ってかこちらを睨んでくる。
「そっか~。小夏ちゃん、またねー!!」
女子達は少し残念そうな顔をするが、小夏にブンブンと手を振り笑顔で帰っていく。小夏も嫌ではなさそうで、手を小さく振り返している。
「俺たちも帰ろうぜー」
帰りの支度を済ませた涼太が話しかけてくる。
「そうだな。東山さんも気をつけて」
小夏に何か文句を言われそうな雰囲気を感じた俺は、小夏に別れの挨拶をして、逃げるように涼太と帰ろうとする。
が、小夏に制服をキュッと掴まれる。小夏の顔をチラッと見ると、ものすごい怒りの表情でこちらを睨んでいた。
「…わ、悪い。今日用事あるの思い出したから先帰っててくれ。」
逃げられそうにないと悟った俺は、涼太に声をかける。
「あ〜、そっか~。じゃあまたな!」
「ああ、またな。」
挨拶をすると涼太も帰っていき、教室には俺と小夏だけが残った。
「あ、あの~、東山さん…?」
怒りの表情を露わにしている小夏から逃れようと、とぼけたフリをしてみる。
「小夏でいいわ…!それより、さっきからずっと言いたいことがあるんだけど…!!」
小夏の手がプルプルと震えている。まずい、逆効果だったか…。とりあえずこの場を平和に収めたいな…。
「あ、えっと…、小夏…さん?…何でしょうか?も、もしかして…告白…とか?」
「は、はぁ!?そ、そんなわけないでしょ!?…な、何でいきなりあなたに告白しないといけないのよっ!」
俺の渾身のとぼけに対して、顔を真っ赤にして明らかに動揺する小夏。いちいち反応が面白い。
「ブハッ!ハハハッ!奈津美さん面白すぎっ!!」
教室には俺と小夏しかいないこともあり、笑いをこらえる必要がない。初対面の奈津美さんの印象が残っている俺は、奈津美さんの名前を呼びながら笑う。
それが小夏の逆鱗に触れたようで、俺の手を掴むと思いっきり捻ってくる。
「いててっ!ごめんごめんっ!」
俺が謝ると小夏はパッと手を離すが、怒りはおさまらないのか、顔を真っ赤にして睨みをきかせる。
と、小夏は何か思い出したのか、悪戯めいた顔をして口を開く。
「う、うわぁぁぁ!!もうだめだぁぁ!!」
「…?おまっ!!」
一瞬なんのことか分からなかったが、たぶん俺がクジラに襲われたときの叫び声だ。あれはほんとに命の危機だったしそんな声も出るだろ!
とはいえ、はっきり言われていたのは恥ずかしい。気恥ずかしさで体が熱くなってくる。
「キャハハッ!あんなに情けない声上げてたの初めて見たわ。矢野さんに話してやろうかしら。」
小夏も楽しくなってきたのか、笑い声を上げる。正直、矢野さんなら聞いても別になんとも思わないだろうが、小夏に弱みを握られたような気分がして気に食わない。
「そういうお前も消滅するって話したら泣きそうになってただろ!」
「っ!!」
俺が言い返すと、あの時を思い出したのか、途端に小夏の表情が険しくなり、悲しい表情をする。
「…あ〜もう!変なこと思い出させて悪かったよ!俺の負けでいいから泣くなって…!」
そんな表情見せられたらこれ以上何も言えないだろ!奈津美さんを演じていたときと、今の小夏とのギャップが面白かったから、ちょっとからかおうと思っただけなのに、気まずい雰囲気になってしまう。
「うぅっ…!」
小夏にとって命懸けというのはよほど刺さったのか、俺の言葉など耳にも入らないようで、今にも泣きそうな雰囲気だ。
「分かった!スイーツ奢ってやるからとりあえず帰ろう!」
このまま泣き出されると俺が怒られそうだし、何よりも小夏の泣いた顔は見たくないと思った俺は、泣きそうな小夏の手を強引に掴み、教室を出る。
「…ケーキ…。」
小夏は少し驚いた様子だったが、こちらの手を振りほどきボソッと呟いた。
世話が焼けるな、と思いながらも、言った手前反故に出来ないので渋々ケーキを買いに行くことにした――。
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