第10話

僕はあの日以来、初めて僕の部屋に行く。

僕が散らかしたままの部屋に。


恐る恐る扉を開く。

だけど、

そこにあったのはいつも通りの僕の部屋だった。

綺麗に片付いた、僕の部屋。


片付けてくれたのはきっと、


綾人だ。



物の配置を見てわかった。

綾人はよく周りの人を見てる人だ。

その分、親の期待に応えようとしすぎるところもある。

お兄ちゃんといると、何にも考えなくていいから楽だ、と昔綾人は独り言のように言った。


「ごめんな、綾人。こんなお兄ちゃんで…。」


僕はつくづく周りを見れてなかったんだと気づく。

こんなにも僕を大切に思ってくれる人がすぐ近くにいた。それに気づいていないだけだった。



机の上には、僕の最後の絵が置いてあった。

あの日、僕にコンペの落選結果が届いた。


確かに僕は勉強はできないけど、絵だけは、それだけは得意だと思っていた。

勉強では、親の期待に応えることはできなかったけど、絵なら両親を喜ばせることができると思った。


僕は、お母さんの自慢の息子になりたかった。


それができなくて、絶望した。

ほんとに僕にはなにもないんだ、と思った。


この一年、勉強を頑張ることができなかった僕がこの先何かができるなんて思えなかった。

全てが無駄に思えた。

なんで生きてるのかわからなくなった。

たくさんの感情が一気に押し寄せてきて、言葉で気持ちを伝えることができなくなった。


そうなったらもう、物に当たるしかなかった。


ねぇ、神様。

僕はそんなにだめな人間なのかな。

そんなに頑張れない人だったのかな。


もう誰の言葉も届かなかった。

誰に何を言われても、お前に何が分かる、と跳ね返した。

みんなが僕を責めているように感じた。


だけど、僕を一番責めていたのは僕自身だった。


自分に自信を持てなくて、何をやってもダメだとついネガティヴな方向に向かった。

ネガティヴの渦に巻き込まれている方が楽だった。


誰かの優しさに傷ついた。

優しくされるたびに、申し訳ない気持ちになった。

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