第9話

4月8日


木曜日。今日は学校に行きます。


「じゃあ、ヒナコちゃん、行ってくるね。」

「おう〜。」


東京の満員電車に乗る。

こんな日は何でもっと大学の近くに住まなかったんだろう、と全力で後悔する。


「はぁ…。」


電車の中じゃ、自然と視線が下に向く。


って、おやじ!?!?!?


「へっへーん。付いてきちゃった!」


えぇぇぇぇー!!!!


おやじのせいで変な声が出て、周りの人に変な目で見られた。


このおやじ、神出鬼没。

でも、確かにおやじがいると安心するのは確かなわけで…。


というのも、今日は大学の授業でペアワークがある。

だから、ちょっと不安だった。

自分なんかが、ペアになってしまって申し訳ないな〜。とか、楽しい話しなきゃ!とか。

なるべく、ふつうに。ふつうにって。

誰かと一緒だと口数が減ってしまう。


私、おやじとしゃべるときは饒舌なのに。


おやじがこの満員電車の渦に飲み込まれないようにそっとすくい上げ、ポッケにいれた。

ポッケの中でおやじが動くたび、なんだかくすぐったくて、自然と笑みがこぼれる。


「ハルカ、それだそ!その笑顔だぞ!!」


おやじがそんなこと言うもんだから、ちょっと恥ずかしくなった。


「ハルカの笑顔は世界一!!だから、大丈夫だよ、ハルカ。」


そっか。

いろんなこと、変に意識してこわばるよりも、自然体でいればいいんだ。

無理に笑顔にならなくていいし、笑いたい時に笑えばいい。


そう、おもうことができた。


うまくできるか分からないけど、とりあえずがんばるよ、私。


って、あれ?おやじ???


神出鬼没のおやじはいなくなる時も突然だ。

今日、家に帰ったらありがとうって言ってあげるよ。


なーんて、ちょっと上から目線かな?

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