第3話

「急に呼びだして、ごめんね。」


そういって照れる律は、私服を着ていた。

律の私服なんて小学生ぶりだ。

いつもとは違う雰囲気に少しドキッとした。

2人で街の一体が見える坂の上のベンチに座った。


「こうやって2人きりになるの久しぶりだね。」


変に意識して"2人きり"なんて言ってしまった。なんだか恥づかしい。

しばらく2人で黙って街を見ていた。


「⋯僕の作品の一部になってほしい。」


律がおもむろにつぶやいた。


「ん?一部って??あー、あれか。モデルになってほしい、とかそういうこと?」


律が私を書きたいと思っていてくれたなんて全然知らなかった。

嬉しい、素直にそう思った。

けど、律は

「うん,まぁ⋯。」

とあいまいな返事しかしなかった。

それからしばらくして


「じゃあ、明日の放課後、美術室で。」


そういって律は帰っていった。

「なんだかそっ気ない。」


律は時々こんな態度をとる。私の知らない律がいる気がして少し悲しい。


・・・と、ここまで思い出して自分が美術室にいたことを思い出した。

どうやら私は寝てしまっていたらしい。

さっきまでそこで絵を書いていた律がどこかに行っていた。

仕上げがまだ終っていない、と律が語る絵と私は美術室に残された。

「なーんだ、私を書いてくれるんじゃなかったんだ」

さっき、絵をみせてくれた時、少しがっかりした。

律が書いていた絵は女の人の肖像画だった。

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