第82話

「お疲れ様です、社長」

「何をしているんだ?」

「何って……料理ですけど?」

「それは……そうだろうな」


 お玉片手に言うのだから誰が見たってすぐわかる。


 社長自身も『そういう事を聞いているんじゃない』と以前イトカが社長に対して思った気持ちと、まんま同じように答えていた。


「ちょうど今出来上がったので座ってください」


 そう言いながらイトカは食事をテーブルに並べていく。


 焼鮭と肉じゃが、ほうれん草の胡麻和えに味噌汁付きで、まさに一般的な家庭料理。


「お前これって……」

「社長みたいにフレンチやイタリアンは、さすがに無理ですけど……たまには家庭料理も悪くないかなと……」


 『お口に合うかわかりませんが』と謙遜している前で、社長は1品ずつ口に運ぶ。


「……まぁまぁだな」

「嘘でも美味しいって言えませんかね」

「俺は嘘はつけない」

「はいはい、そうでしたね。シバ社長はそういう御方でした。よく存じておりますよ」


 『まぁ社長らしいか』と元気そうな事に少し安堵。

 憎まれ口がなくなったしまったら、それこそ大病な気がするから。

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