第10章: 海の歌姫
アリアは再び群れの中心で歌い始めた。しかし、今の歌声はかつてのものとはまるで違う。孤独に沈んでいた音色ではなく、命のつながりを感じる温かな旋律だ。柔らかくも力強い響きが、海中に広がっていく。
他のクジラたちも、自然にその旋律に呼応し始めた。波長が異なっても、心が通い合えばひとつになれる。低く響く声、高く透き通る声が重なり合い、まるで壮大な交響曲を奏でているかのようだ。命の共鳴が、波の振動として大海原を伝い、どこまでも広がっていく。
その歌声はやがて、海の境界すらも超え、陸地へと届いた。かつて「孤独なクジラ」として話題になった歌声が、今や「共鳴のクジラ」として新たな注目を浴びている。
沿岸に設置された観測機器が、その歌声を敏感に捉えた。研究者たちは、かつてと異なる波形に目を見張った。以前は寂しさを感じさせる単調な音色だったが、今は豊かで柔らかな響きに満ちている。データを解析するたびに、新たなパターンが見つかり、その奥深さに心を奪われていった。
「信じられない……。これがあの“孤独なクジラ”の声だというのか?」
若い研究者が驚きの声を漏らす。ベテランの海洋生物学者も、画面に映し出される波形をじっと見つめている。
「まるで誰かと交わっているようだ……。この声は、もう孤独ではない。」
その声には確かに、他のクジラの音色や、海中の生命が反響しているかのような重なりがあった。アリアの声が、新たな生命の交響曲となって響き渡っているのだ。
やがて、その歌声をテーマにしたドキュメンタリーが制作され、「共鳴のクジラ」として世界中で話題になった。孤独の象徴から、希望とつながりの象徴へと変わったその存在に、多くの人々が心を打たれた。
夜の海、満天の星が水面に映り込む中、アリアは静かに歌い続けた。潮風がその歌声を運び、月明かりが海面を優しく照らす。かつて孤独だと感じていたその声は、今や命をつなげる証となっている。
「私は、もうひとりじゃない。」
アリアの胸には、確かな確信が宿っていた。孤独を乗り越え、つながりを見つけたその声は、これからも海と命を結び続けるだろう。海の歌姫として、新たな時代を切り開きながら。
その声は、海を越え、陸を越え、空を越えて、世界中の心に響き渡る。アリアの歌が続く限り、その共鳴は絶えることなく広がり続けるだろう。
届かぬ声、響く心 ~ 52Hz(ヘルツ)の歌姫 ~ Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter
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