第9章: 新たな群れのかたち

「アリア、ずっと探していたんだ。」

リーダー格のクジラがゆったりと近づき、優しく声をかけた。

「君の歌が、他の誰とも違うことは知っていた。でも、今はその声が心に響いている。」


その言葉に、アリアの胸がじんと熱くなった。ずっと届かないと感じていた歌声が、今や仲間たちに受け入れられている。孤独だと思っていた自分の存在が、ようやく認められた気がした。


「どうして……今になって届くようになったの?」

アリアは小さくつぶやいた。その疑問が頭を離れない。かつて何度も試みたときには、仲間たちに届かなかった歌声が、なぜ今になって届くようになったのか。


そのとき、ふと気配を感じた。魚たちがアリアの周りを踊るように泳ぎ始めたのだ。小さな体を揺らしながら、彼女の歌声に合わせてリズムを刻んでいる。アリアはその様子をじっと見つめていたが、やがてハッと気づいた。


「そうか……。みんなが、私の声を運んでくれているんだ。」


魚たちが織りなす無数の反響が、アリアの高く繊細な歌声を支え、広げていた。海の中で共鳴し合い、その響きが遠くまで届く力になっていたのだ。彼女の歌声は決して一人のものではなく、海全体が支えてくれていた。


「私は、ずっとひとりだと思っていたけれど……本当は、みんなが支えてくれていたんだね。」

アリアの瞳に涙が浮かび、温かい感情が胸に込み上げた。孤独だと思っていた声が、実は海全体に支えられ、命の交響曲となって響いていた。


リーダー格のクジラが、優しくうなずいた。

「君の声は特別だ。私たちは、その意味を理解できていなかった。でも、君がその声を信じて歌い続けたからこそ、こうして届いたんだ。」


その言葉に、アリアは深く息をついた。歌い続けた日々が、無駄ではなかったと実感できた。仲間たちが自分を受け入れてくれたことが、心から嬉しかった。


「ありがとう……。」

アリアは感謝の気持ちを込めて、ゆっくりと歌を紡いだ。その声には、もう孤独の影はなかった。魚たちは再び踊り、他のクジラたちも歌声を重ねる。海全体が、ひとつの命として共鳴しているようだった。


アリアは確信した。自分の歌声には意味があり、誰かに届く力があるのだと。海に生きるすべての命が、彼女の声とともに響き合っている。その共鳴が、新たな群れの形を生み出しつつあった。


「私は、もうひとりじゃない。」

その確信が、彼女の歌声にさらなる力を与えた。命の旋律は、海の果てまで届き、いつまでも響き続けた。

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