第19話

アキトさんの表情がクルクル変わるのが見たくて、

昨日のフユキとの喧嘩を唐突に話してみた。

アキトさんがいう言葉は百点だった。

悔しかった。完敗だ。


あぁ大人。

アキトさんはフユキとは違う大人だった。


帰りの電車でフユキに仲直りのメールを送る。

送りながら私はアキトさんの目を思い出す。

憧れと尊敬と好きを混ぜた感情。

フユキには見せたくない秘密の私の顔。


私がフユキに見せる顔や言葉には玉子一個分の嘘が混ざっている。

その嘘は誰にも裁かれることのない感情。

アナタだけが好きという少女期だけが持つことの許されたあの感情が

私の中で終わった。


これから少しずつ、恋愛感情の中に玉子1個分ずつ嘘を増やして行く。

その嘘がなにものなのか、本当にそれは嘘なのか。


アナタが好き。

でもね。

アナタ以外も好き。


これは恋の嘘なのか。愛の嘘なのか。

この嘘の玉子が、私の感情をマイルドにしていく。

棘の先端を丸くする。

玉子はそういう食材なのだとレシピは言う。

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