第15話

アキトさんに声をかけたら

一緒に行こうかと言ってさっと並んでくれた。


そっと肩に手を添えて、私を歩道側へエスコートし、

自身はすっと車道側へ移動した。


三宿までは道幅が狭く、ゆったり距離は取れない。

ドキッとした。すぐ右上にアキトさんの横顔がある。

綺麗な顎が見えた。髭を剃って肌の手入れをしている。

近くで見ると分かる。とても清潔な顔。



私の実家が老舗の洋菓子屋さんで、

今日ほど良かったと思ったことはない。

両親に感謝すべきポイント一位が、まさかのクッキーなのである。


祖父が始めた洋菓子店。

まだ日本でクッキーやマドレーヌが珍しく贅沢な食べ物だった頃、

地方都市のその街では、まだまだ珍しいお店だった。


丁寧な作り、変わらない素材。

祖父のお店は派手さはないけれど真摯な味で、

全国にいるご贔屓の方に愛されるお店だった。


父はそのお店を継ぎ、クッキーやマドレーヌを焼いている。

中でも人気なのはオリジナルのブリキの缶に入った

創業時から変わらないクッキー詰め合わせだった。


雑誌で何度も取り上げられており、

予約で数ヶ月待ちの時もある。

幼い頃から割れたクッキーはおやつだったので、

自分にとっては普通のおやつだけど

東京に来て雑誌を見ながら友だちに「これウチの」と話してから、

私は大学でちょっとした有名人になっていた。

あのクッキーの人。という有名人。


このクッキー缶を愛して下さり、定期的にお届けしていたのが

料理教室のオーナーご夫婦だった。

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