第14話

ナツちゃんと一緒に三宿交差点までゆっくりと歩く。

僕は車道側。ナツちゃんはなるべく安全な歩道。


ふたりで傘を差して歩くけれど、

お互いに折りたたみ傘なので

傘は小さかった。


思えばハルは折りたたみ傘を嫌う。

ちょっとくらいなら濡れれば良いじゃん乾くし、と平気で言う。

その通りだけど、働き始めて分かったこと。

折りたたみ傘は意外と便利だし、濡れると簡単に乾かない。


ナツちゃんはいつでもシャツの襟はシワがなく

キチンとアイロンをしてからシャツを着るのだろう。

斜め左下に見える彼女の襟は今日もぴしっとしていた。

襟が彼女そのもので、どこまでもハルとは別の感じがした。


そういえば僕はハルのシャツを着た姿を見たことがない。

同棲しているから分かるけど、ハルの私服に襟がある服がない。

ギリギリ襟かなと感じるのは真冬のコートだけだろうか。



「今日のレシピもなかなか難しそうだね。美味しそうだけど。」

僕はナツちゃんに話しかけてみた。

静かな口数の少ないナツちゃんはスマートフォンの画面を確認して

メールで届いていた今日のレシピを再確認して見上げた。


「今日、全部、卵料理なんですね。」

黄色い画面を見てちょっと笑っていた。


「フランス、スペイン、イタリア。

 三国の地方に伝わる玉子を使った家庭料理。作り比べ食べ比べ。

 面白そうだよね。」

僕は玉子で埋め尽くされる胃袋を想像して

涎が出てくるのを口の中で感じた。

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