第13話
三軒茶屋の駅に着くと、
ホームに見慣れた背広の男の人の後ろ姿を見つけた。
アキトさんの背中だ。すぐに分かった。
背が高くスラリとした体型。
完成された骨格。
少ししか年は違わないのに、
社会人と大学生はこんなにも違うのかと思う。
背伸びで届かない。それが大人の向こう側なのか。
アキトさんの背中を無意識にフユキを比べてしまう。
落ち着きのない大雑把でがさつなフユキは、
いつだって背広はシワだらけだし、仕事鞄は空きっぱなし。
ちゃんと閉めなと言っても、
どうせ開けるから面倒とやんわり拒絶する。
アキトさんのカバンは革の角が綺麗に出ていて、
ファスナーもキッチリ閉じていた。
綺麗だと思った。
階段を昇り出口が見えると雨が降っていた。
アキトさんの背中をゆっくり見ていたくて、
少しだけ距離を取って後ろを歩いていた。
アキトさんは駅の出口の終わりで、
カバンから折りたたみ傘を出す。
あぁそうだ。
この人は折りたたみ傘を持っている側の人間だ。
絶対にそうなのだ。
私は立ち止まり傘を用意して歩き出すアキトさんを目で追った。
そして少しの時間差のあと、
私も勿論持っている折りたたみ傘をさした。
私たちは折りたたみ傘を持っている側の岸に住む住人。
間違いないのだ。
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