第10話

「ねぇねぇ、エマ、前から聞こうと思っていたんだけど、リツのあだ名のリッツって、もしかしてこれ?」



私はみんなから「リッツ」と呼ばれている。


どうやら「リツ」という発音がしにくいらしいし、それにリッツの方が覚えやすいとのこと。


「ビスケッットのリッツと同じリッツよ。」


そういえば誰でもOKとほほえんでくれる。




エマは得意そうな顔をして口の中のビスケットを飲み込んだ。


「そうよ。私が名付けたの。リッツって。」


スーも笑いながら「分かりやすくていいと思うよ。」と私に言ってくれた。



「同じアジア圏だから、私はリツでもリッツでも言いやすいんだけどね。」


スーはちょっと仲間なんだよって顔で私をみた。



スーは中国からの留学生で、両親は香港で貿易の会社を経営しているらしく、この学校で英語を使う生活になれたら、そのままボストンの大学へ編入するらしい。


経済学が得意で、とことん数字に強い。


なぜか日本のそろばんが好きで、香港で日本人が開いていたそろばん教室に6年も通っていたそうだ。


この前、スーにそろばんの事で質問されたけれど、小学校の時に少し触った程度の私にはさっぱりわからなかった。


スーは驚きながら不思議そうな顔で「日本人はみんなそろばんが出来るんだと思ってた。」と言った。


「中国人がみんな酔拳出来る分けじゃないのと同じよ。」と言い返してみたら「スイケンって何?」と聞かれてしまった。




この寮の中で私たち三人はなんとなく一緒にいることが多かった。


大親友とかベタベタくっつくとかではないけれど、なんとなく心地よい距離感を保ったまま、近すぎず遠すぎない関係でいられた。


次の新学期には、みんなここから旅立つということも、友情が生まれたきっかけの一つかも知れない。




エマはさらに語学習得のために、次はイギリスの学校へ行く。


スーはボストンの大学へ。





そして。




私は日本へ戻ってOLになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る