第7話
日がな一日、日本語はパソコンと小説だけで、あとはアルファベットが私の中でぐるぐるまわる。
端がすり切れてぼろくなった英語の辞書。
デジタル辞書の方が楽だって言う人もいるけれど、神の辞書は、そこに時間や人の手垢や私の心が入って化石になって死んでいくようで、使い込むのが好きだった。
いつかこの辞書は、死んでボロ紙の塊になって、古くなった電話帳みたいに、どこかのゴミステーションでひっそりと黄色いゴミ収集車によって運ばれていく。
その、絶対にいつか訪れる別れのようなもの。
私はそんな日が来ることを知っているのに、この辞書がいなくなる日、少し寂しいと思うだろうと思う。
ありがとうとちゃんと言えたら。サヨナラは寂しくないのだろうか。
今日も掌の中でヨレヨレの紙たちは、辞書らしい「シュッシュシュ」という音と共にめくられていく。
「リッツ!洗濯をするよ!どうする?」
レポートを制作していたら、すっかり窓の向こうは夜になっていた。
眼鏡を外して、右手に持ったペンを机の上に置いた。
廊下から聞こえてくるのはエマの声だった。
エマは1つ年上の女の子で、スペイン人とフラン人のハーフだと言っていた。
少し茶色い肌と深い青い瞳がきれい。
黒くクルクルまかれた髪の毛を、いつも適当にゴムでくくっている。
後ろ姿がちょっとセクシーで襟の大きなビビットカラーの服が似合う。
「私も一緒に洗濯したいから、ちょっと待ってて!」
ゆっくり立ち上がり、洗面所にあるランドリーボックスを抱えて抱き上げた。
私たちの寮はランドリーだけ共有になっている。
シャワーやトイレは各部屋に付いているけれど、洗濯機も乾燥室もない。
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