第4話

遠野律子、28才。


職業、専業主婦。


資格、とくになし。



近藤律子から東野律子に名前が変わって5年。


未亡人歴3年。





私のプロフィールは、言葉にするとなんと簡素だろうか。


窓辺のソファに座りながらコーヒーをすする。



今日も秋晴れの空が、突き抜けるように高い。


ちょっと前まで夏の蝉の声にうんざりしていたのに。


気付けば目の前のガラスの向こうを赤とんぼが飛んでいく。


床も庭もフラットに出来ている吹き抜けのような大きな窓を開けると、冷たい空気と、秋の木枯らしが、落ち葉をこの部屋へ連れてきた。


どうで、あとで掃除機をかける。


それまでは、この落ち葉と一緒にこの部屋をシェアしたって構わない。



パジャマにそのままつけたマリメッコの黒と白の大きなお花の絵のエプロン。


ポケットに手を入れて部屋の中を横切る。




小腹が空いたな。



冷蔵庫からバナナとヨーグルトを出す。


ステンレスの「sunao」という名前のスプーン。


ヨーグルトを白い陶器の器に移す。


オランダのデザイナーが描くシンプルで大胆な絵が美しい。




保存食の引き出しを開ける。




そこには、いつも。


リッツの赤い箱が鎮座してる。永遠に指定席ですという顔で。


銀色に斜めに赤い文字をプリントした袋を1つ出す。


ドライフルーツが入ったクリームチーズと、蜂蜜を少々。



すべてをトレーの上に並べて庭に出る。


通り道にあるオーディオセットの電源をつけて、入れっぱなしのVanessa CarltonのCDをかける。


高い乾いた空に彼女の声は突き抜けて雪のようにはかなく消えていく。




昨日と同じような。




たった一人の、静かな朝食が始まる。

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