1-3

次第に男との距離が縮まる。彼の背中を追いかけて交差点に差し掛かった時、不意に青信号が渡の両目に飛び込んできた。

 


遠い記憶の底から、青空へ跳ね上がった女子高生が渡の目の前に蘇った。


心臓が再び耳元で唸り声を上げる。先程聞いた女の悲鳴よりも遥かに高く、その音は凶器となって渡の胸を打ち砕いた。


痛い。


渡は心臓を右手で押さえた。


息が荒くなり、その場で膝をついた。横から信号無視の乗用車が通り過ぎていく。


なんで……なんで今更こんなことが。呼吸が激しくなり、額から汗が滴り落ちた。


遠くへ逃げる男の後ろ姿を目で追いながら、渡は悔しい気持ちで唇を噛んだ。


「渡巡査!」


光嬢が駆け寄ってきて、座り込んでいる渡の背中をさすった。


「どうしたの? なにかあったの」


渡は首を振った。立ち上がり、まだ鼓動の脈打つまま急いで現場へ戻ると、そこにはさっき見たのと同じ格好で女性が一人、うつ伏せになって倒れていた。


出血が激しい。光嬢が救急車を呼んでくれていたが、脈をはかってみると、女性は既に死亡していた。


これは明らかに殺人だ。近くにいながら女性を助けられず、その上怪しい人物を取り逃してしまった。


絶望的な思いに駆られながら携帯電話を胸ポケットから取り出し、渡は百十番をした。

 


一月二十日、午後十一時二十三分。殺人事件発生、現場確保――。

 

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