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訊き返した渡に、光嬢は持っていた鞄を大きく振り、笑って誤魔化した。
大きくなった。
街灯に照らされた光嬢の顔を見て、渡は思った。渡の胸の中で目を瞑り、ミルクを飲んでいたのが、つい昨日のことのように感じられる。
いつからだろう、「光ちゃん」から「光嬢」なんて呼ぶようになったのは。
「本当は私、真面目なんかじゃないよ。塾さぼって友達とファミレスでお喋りしていただけ。十分くらい……は、勉強したかな」
渡の顔を見て、舌を出す。あらかたそんなことだろうと、渡は予想していた。
あんまり羽目をはずすなよ。お母さんも心配しているだろうから――そう言いかけた時だった。
すぐ近くで、耳をつんざくような女の悲鳴が聞こえた。
声は時間にして三秒もなかっただろう。甲高い悲鳴はすぐやみ、辺りは瞬く間に静かになった。
渡は立ち止まり、光嬢と顔を見合わせた。
彼女の表情がみるみるうちに凍り付いていく。
「なに今の」
光嬢は不安そうに呟いた。
酔いが吹っ飛んだ。次の瞬間、渡は悲鳴を聞いた方へと駆け出していた。細道の角を曲がると、小規模な児童公園の入り口に人が倒れているのを発見した。
その人の傍で、何かが蠢く気配がする。周囲に気を配ると相手も渡の存在に気がついたのか、慌てた様子でなにかを叫び、逃げ出した。渡は反射的に追いかけた。
暗くてよく見えないが、相手は人間――男だ。手にはナイフのようなものを握っているが、刃は見えない。
飛び出し型ナイフだろうか。渡の位置からそれがナイフだと断定するのは難しかった。
不審者を、逃がすわけにはいかない。
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