第8話

私は望実が帰った後も彼の部屋の前に座り、いつもドキドキしながら開けていた扉を見上げる。

なんだか泣きそうだよ。

その時、突然怒鳴り声が聞こえてくる。


「コラ!どこから入ったんだ!」


他の住人が私に気付き、追い払うように傘を振り回して追っかけてくる。

私はそのまま外に追い出されてしまった。

しかし彼にもう一度会いたい。

このままでは引き下がれない。

私は裏手に回りベランダ側を見上げる。

大丈夫。

今の私は猫なのだ。

そう意気込んで、まずは木をスルスルと上っていき、途中でベランダの柵に飛び移る。

慣れない動作に足を何度か滑らせてしまったけど、なんとか彼のいる部屋のベランダにたどり着いた。

しかし窓は閉まり、カーテンも引かれているので中が見えない。

出かけてしまったのだろうか。

私は彼に呼び掛けるように少し鳴いてみた。

するとカーテンが揺れて隙間からベランダを覗く彼の姿が見えた。

彼は私に気づき微笑んで窓を開けると、私を抱き上げる。

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