幸せの温もりと夢を運ぶ人々

第12話

「…ふふっ」


自分の笑い声ではっと気がついた。


月の世界にいたはずの私は…

タクトと旅立つ前でうなだれていた公園のベンチでどうやら居眠りをしていたようだった。


「えっ…夢…。」


分かっていた。全部夢だってこと。

重力に逆らって空飛んだこと、

宇宙服なく月へ行ったこと、

月に住んでいたのは私の叔父さんだったってこと。。  

夜空に頼まれて星を撒いたことだっても。


…覚めてほしくなかった。


だって、叔父さんともっと話したかった。

タクトは結局誰だったのかも分からない。 


ヒュウ…と冬の北風が

コレが現実、と言わんが如く私にぶつかってくる。


なんだか、体から力が抜けてしまった。

リアルすぎる有り得ない展開の夢。


あの時間から、何も変わってないのか。

はぁぁ…と深いため息をつく。

どれだけ寝ていたのか分からないが、体が芯まで冷えてしまったようだ。

「寒い…帰ろ…」


その時。


サクサク…と、公園内に落ちた葉を踏む音が聞こえる。一人の人物がこちらに向かってくる。


「理子、やっと見つけた…」

ベンチの後ろ側から聞こえた声にゆっくり振り返る。

そこには、アパートを飛び出した私を探しに来てくれた、彼氏が立っていた。

「誠…。」

すごく気まずい感情に襲われ、小さな声で彼の名を呼ぶ。


誠は「良かった…」と一言つぶやき、ベンチに座る私の前に周り、深々と頭を下げた。


「理子、本当にゴメン。俺は、お前のおかげで生きているようなものなのに、お前に手を挙げてしまったこと

本当に謝る。

…実は俺、会社クビになって行くところなくてお前のところに転がり込んだんだ。お前にそれをバレたくなくて…。

早く職探したい焦りとかで切羽詰まってて自分見失ってた。…愛する女に手挙げるなんて、俺最低だよな…ゴメンな…」

彼は頭を下げたまま、涙声で打ち明けてくれた。

…彼は彼で辛かったんだ。誠意がじーんと伝わってきた。

「…いいよ。ホントの事言ってくれてありがと。」

私は、ポケットからハンカチを取り出して彼の頭を上げさせて涙を拭った。

その手をそっと彼は自身の手で包み込み、

「冷たい手…。寒かっただろ。」と言った。

厚く大きく、そして暖かい彼の手の温もりが私の心の奥の氷が溶かしてくれたような気がする。

私も自然に笑顔になっていたのか、

彼の表情がほっとした顔になった。

「あぁ、やっと笑ってくれた。…こんな時に言うのもなんだけど、やっぱり俺、理子の笑顔が一番好きだ。」

単純かもしれないけど、この一言が本当に嬉しく、やはり私は目の前にいる彼が好きなんだな、と改めて思った。


「…帰ろう。」

私は、頷いてベンチから立ち上がって彼に寄り添った。

彼は自分が着ていたコートを私にかけようとしてくれた。 

「いいよ、誠が風邪ひいちゃうよ!」

彼は、そう言い終わるのを聞くやいなや、私を強くギュッと抱きしめた。

身体中の体温が頭に集中する…!

「こうすれば、寒くない、だろ?」

彼のさっきの泣き顔はどこ行ったのか。

全く、お調子者がぁっ!!て思った直後だった。


「痛っ!!」と彼が叫び、私を放して頭を抱えてうずくまった。

「どうしたの??」

何が起きたか分からない私。。

「なんか、固いモノが俺の頭直撃した…」

と痛がる彼の足元に落ちている物をみて私は目を見開いた。


それは、

月の世界に着いたときに初めてクロウに会い、彼に殴られた痛みがあった右頬からクロウが取り出してくれた、あの小石だったのだ。

あの時、クロウは遠くに投げ飛ばしたけど…!!

小石を触るとほんのりと暖かく、白っぽい色の中に砂金が入ってるようでキラキラと公園を照らす月明かりに反射してるように輝いている。

私は、小石を私のポケットに入れ、満月に向かって微笑んだ。


『夢じゃなかったんだね!ありがとう!タクト、クロウ!!』

と心で呟き、彼を促してアパートに帰った。


誰もいなくなった公園をただ、満月だけが見つめていた。

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