第9話
そんな私の状況などお構いなく、
観客たちはタクトとクロウのパフォーマンスに魅入られて、歓声をあげていた。
『サンキュー!』
たくさんの人たちの拍手と歓声を受け、嬉しそうなタクトとクロウ。
クロウはホウホウホウ!とフクロウが鳴くような声を挙げながら手を挙げて声援を受けていた。
『ありがとう!…さて、早速だけど皆にはコレから星を撒く手伝いを、してもらおうと思ってます!』
タクトの突拍子のない発言に何故か驚くことがない観客たち。
きっと、私とおなじ『夢』の中のことを認識したのかもしれない。
タクトはステッキを銃のように構え、
底の部分をたくさんのバケツの横にそびえ立つチョコレートファウンテンのような不思議な機械に標準をあわせ、光を放った。
光は大きく弧を描きながら見事機械に命中し、機械はゴゴゴ…と、低い音を立てながら動き出した。
すると、普通ならチョコレートが出てきそうな真ん中の筒から、虹色に輝く小さな無数の光の粒を吐き出した。
光の粒の波は機械を伝い、段を描き、滝のように降り注ぐ。
シャラシャラ…という優しくきれいな音が響き渡る。
その幻想的かつ神秘的にもみえる光景に、その場にいた皆が心を奪われた。
綺麗…。まるで満点の夜空に輝く天の川がそのまま流れてきているごとくだった。
「やり方はカンタンです!その機械から溢れ出ててるその星屑を空に投げてください!」
クロウが機械の傍らに立ち、下にたまった『星屑』を両手で掬い、
そのまま勢いよく空へ投げた。
すると、クロウから放られた星屑たちはキラキラと光をまとり、空に吸い込まれるように貼りついた。
私と観客たちは少しオドオドしながらも機械のまわりに集まり、各々機械からかけらを掬い、空に投げる。
すると、空に舞う星達の輝きと空に貼りつき、キレイに輝き始める星達を見上げて歓声を挙げ、各々が遊園地のアトラクションで遊ぶ子どものように老若男女問わずはしゃぎながら星を撒き始めた。
ゆるふわパーマが印象なかわいい女性は星が空に舞い上がるのを見て自分も飛び上がって喜んでいる。
カメラを持っていた男性はその神秘的な光景を収めようとカメラを構えたり、
女の子とお母さんは代わる代わる星を撒いては歓声挙げながら顔を見合わせてたのしんでいる。
その中、私は呆然としながら涙を流していた。
丘のステージでニコニコしながら皆の様子を見ていたタクトはそんな私に気がつき、私に寄ってきた。
「ミチコ、どうしたの?…泣いているの?」
言葉が、出てこない。
皆と共に楽しそうに、星を撒くクロウと失踪した叔父さんが重なって見えて仕方ないのだ。
「タクト…私にはね、会いたくて会いたくて仕方ない人がいるの。けどもう会えない人だったんだけど…その人と今さっき会ったばかりのクロウが重なって見えてしまって。」
タクトは私の涙を拭い、私の肩を抱いて私の耳元で、囁いた。
「ミチコ、泣かないで。この場で一番楽しむべきなのはミチコ、キミなんだ。どんな理由であれキミが泣いているとボクも悲しいしクロウも悲しいと思う。
クロウとそのミチコの大事な人と重なるなら、ミチコもう会えてるじゃないか。今、ミチコはその人といるんだよ。」
はっ…と、した。
タクトの言葉で確信した。
そう。クロウは会いたかった叔父さん…と心から思えてきた。
「さぁ…」と、タクトは背中を押す。
他人とは、思えない。
クロウにハグされたときに香ったあの香り。
マジックの所作。
雰囲気。
私はタクトの言葉のマジックにかかったように無邪気に星を撒くクロウに近づいた。
クロウは神妙な顔をして近づいた私に気がつき星を撒く手を止めた。
その時のクロウはピエロではなく、一人の、大人の男性の顔付きだった。
ピエロのメイクの奥で、
ふっ…と優しく笑う。
「理子。やっと会えた。」
やっと…会えた…!!
「叔父さん…!!!」
それは間違いなくピエロのクロウではなく
10年前に目の前から居なくなった私が大好きだった叔父さんだった。
私は叔父さんの胸に飛び込み、慟哭を上げてしまった。
叔父さんは優しく、私の背中を撫でてくれた。
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