第8話

ポン!という音とともに現れたのは

たくさんの大きなバケツと刷毛、そして、…チョコレートファウンテンのような茶色の大きな不思議な機械。


『星を撒く…?』

そう、とタクトは頷く。

彼は一つのバケツを持ち上げた。


バケツの中には仄明るい色を放つたくさんの小さな粒が入っていた。

「これは…?触って大丈夫なの??」

もちろん、とタクトは微笑む。


私は、タクトが差し出したバケツの中身をすくい上げた。

すると、仄明るい粒達は私の手に救われると少し強い光を放ち始めた。

ほんのり、暖かい。

『よしミチコ、そのまま空へ投げてごらん。』


タクトが言うように私は、そのまますくい上げた粒達を空へ投げた。


シャララ…と優しい音を立てて、

粒達は夜空に吸い込まれて行く…。そして夜空にくっついた瞬間、キレイに瞬き始めた。

「えっ?!…これって。」

「星屑たちだよ。これを撒いて空を輝かせるんだ。

ボクとミチコが初めてあったあの公園でね、この満月から頼まれてたんだ。『皆が見上げるこの夜空をもっともっと輝かせたいから、星を増やしてくれないか?』ってね。…けど、さすがに3人じゃやっぱ人手が足りないんだよね…」


タクトは(˘•ω•˘)うーん、と困った表情を見せる。

「だからボクは考えた。夢を運ぶ宅配便のボクは夢をみてる皆の力を借りようっておもってね。楽しい夢を皆で見るんだよ。」


ニコッと笑うタクト。


星を撒く。…皆で楽しい夢を見る。

私がさっき空に投げた粒が星屑……。



また不思議な展開になったが、野暮なことはもう聞かないようにしようと思った。

「なんだか楽しそう…」

さっき試しに空に撒いた星達がもっと増えるんだ。

常識の概念を払拭すると楽しさだけが残った。

「そろそろ来るかな?」

タクトが腕時計をチラッと見やると、


先ほどクロウが現れたように、たくさんの、しかも、様々な色や形のドアが至る所から現れ、それぞれの扉が開き、不思議そうな表情を浮かべながらたくさんの人々が現れた。


カメラを持ったメガネをかけた男性、

利発そうな女の子とともに来た女性、

ハンチング帽が似合う男性。

メガネをかけた女性…。

中にはご家族らしき団体で来ている人たちもいる。


皆それぞれ『ここは…?』といった表情で自分のいる世界を見回す。


タクトはトントントン!とステッキで地面を叩くと、

少しステージのようになっている小高い丘の上に登り、ハットを取って深々と皆の前で、お辞儀をした。


『レディースアンドジェントルマン!ボーイズアンドガールズ!

ようこそ、ここは月の世界!

そしてボクのお手伝いに来てくれてサンクス!』

突然のタクトの挨拶に見入る人たち。

『せっかくなので、ボクのショーをまず、ご覧ください!ミュージック!!』

パチンと指をならすと、後ろでいつの間にか音響機材を揃えていたクロウが楽しげなサーカス音楽を流す。


タクトが大きく右手を上げ、アートバルーンを取り出し、バルーンパフォーマンスを繰り広げる。


あっという間に、花、飛行機、犬などをバルーンで作り上げるそのパフォーマンスに人々は驚いていたが段々見入り、歓声をあげている。

そのたびにタクトは屈託のない笑顔で答える。

そして、途中からクロウも加わり、マジックが始まった。


カードマジックから始まり、コインやモノの瞬間移動、お化けのダンスなど、様々なマジックが繰り広げられる。


私もマジックに魅了される彼らと共に我を忘れてパフォーマンスを楽しんでいた。

そして、クロウは何も入っていない黒いハットから、

パンダウサギを取り出すマジックを披露していたとき、


はっ…とした。


そのクロウのマジックの所作が、

10年前忽然と姿を消した叔父さんの姿と完全にリンクしたのだった。

叔父さん…?いやそんなはずでは?!

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