第2話 今度は右ってどういうことなの?
≪1≫
■自宅
「右腋下リンパ腫脹 要精密検査」と書いた紙がテーブルの上に置いてある
憂鬱そうに紙を手に取る彩莉
彩莉(最初は左だったのに、今度は右…)
彩莉(N):最初に検査結果が届いた時は、どうせ間違いだろうと思い込んでいて、
急いで検査する必然も感じていなかったため、
3月のカレンダーの前で固定電話から電話している彩莉
彩莉(N):カレンダーはいつの間にか3月になっていました。
≪2≫
彩莉、受話器を耳に当てながら
彩莉「あの…またそちらで検査してもらうわけにいきませんか?」
検診専門施設の人(電話の向こうから)「申し訳ありません。精密検査はさすがに専門の病院でお願いしてもらうことになります」
彩莉、受話器を耳に当てたまま考え込む
彩莉(専門の病院…)
彩莉(N):専門の病院と言われて思い出すのは、以前、乳腺線維腺腫を診断してもらった病院です。だけど…
彩莉、受話器を耳に当てたまま顔をしかめて
彩莉(あの病院、今の家から行くのはちょっとだけ面倒なんだよね)
書き文字:引っ越してるから…
検診専門施設の人(電話の向こうから)「特に通っている病院がなければ、どこの病院でもうちで紹介状出しますから…」
≪3≫
彩莉、検査結果の封筒に書いてある検診専門施設の名前をじっと見る
彩莉(そういえば…)
彩莉「あの…たしか、そちら、系列の病院ありましたよね?」
検診専門施設の人「え? あ、はい…」
彩莉、真剣な顔で
彩莉「よろしければ、その病院あての紹介状お願いできますか!」
≪4≫
彩莉、うきうき顔で食卓の椅子に座って
彩莉「すっかり忘れてたけど、あそこの系列の病院ってうちから近いんだよね」
書き文字:自転車で行ける♪
検査結果の紙を手にしながら、にこにこと
彩莉「よーし、これでひとつミッション(?)クリア! しかし左胸が引っかかったはずなのに、再検査で今度は右って…」
彩莉、はっとする
≪5≫
彩莉、はっとした顔で
彩莉「あれ? もしかしてテニス肘のせいってことは?」
■スポーツセンター_体育館(回想)
中高年とバトミントン教室で練習する彩莉
彩莉(N):前年の9月、市の主催するバトミントン教室にはまって、夢中で練習をしたという時期がありました。
■自宅(回想)
パソコンの前で腰を叩いている彩莉
彩莉(N):ライターは座り仕事ですから、慢性的に運動不足。
≪6≫
■スポーツセンター_体育館(回想)
バトミントンを張り切る彩莉
彩莉(N):体を動かすの大事です。
バトミントンの羽が彩莉の頭の上にポンと落ちる
彩莉(N):が……運動音痴の悲しさ。
■自宅(回想)
湿布をした右ひじを恨めしそうに見つめる彩莉
彩莉(N):腕の痛みに整形外科の門をくぐれば、テニス肘との診断が。
≪7≫
■自宅
湿布のない右ひじを軽く動かしてみる彩莉
彩莉(N):テニス肘の痛みは長く続き、半年たっても、微かな違和感が残っていました
彩莉、右ひじをじっと見つめながら
彩莉「今回は右脇の下のリンパだよね? リンパって風邪ひいたり雑菌が入るとすぐ腫れる箇所だし、もしかして…」
≪8≫
■系列病院_乳腺科診察室
医師B(男性・おじいちゃん先生)が胸を出した状態の彩莉の胸をもんで触診をしている
医師B「…うーん、腫瘍なさそうだねえ」
彩莉(N):予約当日、またもやマンモグラフィー撮影と触診をされた後、私はテニス肘の件を担当になった年配の男性医師にお話ししました。
服を着た彩莉、診察室で医師Bと向かい合って
医師B「テニス肘か。可能性はあるなあ」
医師B、フレンドリーな感じに、背景にイメージの猫
医師B「腋の下のリンパなんてちょっと体調を崩しただけですぐ脹れる。特に多いのは猫好きの人の猫引っ掻き病だね。猫好き?」
≪9≫
彩莉、苦笑気味に、背景に野良猫を遠目で見ながら通りすぎる彩莉のイメージ
彩莉「嫌いじゃないですけど、飼ってないし、野良猫をわざわざ構うほど好きってわけでもないですね。なので、引っかかれた経験はありません」
書き文字(彩莉):あっちからじゃれかかってくれば撫でるぐらいはするけど
医師B「そっか」
医師B説明モードで、彩莉真面目に
医師B「あと膠原病の可能性もあるな。膠原病ってわかる?」
彩莉「一応。難病ですよね…」
彩莉(N):膠原病が持病の友人がいるので、膠原病だったら大変だなと思いました
≪10≫
彩莉不安そうな顔、医師B、笑って
医師B「そう心配しなさんな。このリンパでがんが発見なんていうのは僕の医者人生に一度あるかないかってぐらい珍しい症例だから、
気にすることはない」
書き文字(医師):まあ絶対ないってわけじゃないから検査するんだけどね
彩莉、少しリラックス捨て
彩莉「は、はあ…」
彩莉(N):そこまで珍しい病気にかかることもないだろう。その時はそう思ったのです。
≪11≫
医師B、少し真面目な顔になって
医師B「僕が気になるのはむしろ左乳房の腫瘍だね。ちょっと大きすぎだ。細胞診しよう」
医師B、背後の看護師に向かって。彩莉、戸惑い顔
医師B「ちょっと細胞診の準備よろしくー!」
彩莉(え? 左は乳腺線維腺腫で決着がついたのでは?)
上半身裸でお腹から下はバスタオルをかけられている状態で診察室のベッドに横たわる彩莉
彩莉(いや、よく考えたら左に関しては特に何も言われてないっけ)
≪12≫
医師Bに左胸を超音波検査されている困惑顔の彩莉
彩莉(N):細胞診は超音波で位置確認しながら
医師の持ってる細胞診用の注射器を見て「うわぁ」という顔をしている彩莉
彩莉(N):長くて細い注射針で腫瘍の細胞を吸い出して調べる検査でした
細胞診の注射針が彩莉の左胸に刺さっている
彩莉(N)ちょっと痛かったけれど左胸の採取はさっと終わりました。
≪13≫
ベッドに横になったままの彩莉ににこやかな調子で医師B
医師B「右のリンパの方はどうする? 様子見でもいけど」
彩莉(いやむしろ、それ診てもらいに来たような…)
彩莉、横になったまま少し考え顔で
彩莉「んん~、私が先生のご家族ならどうします?」
医師B、少し真面目な顔になって
医師B「そりゃ取ればそれだけ情報が多く手に入るから取った方がいいことはいい」
≪14≫
彩莉、真面目な顔で
彩莉「じゃあお願いします」
医師B、背後の看護師に指示を出しながら
医師B「了解」
書き文字(医師):もう一回細胞診の準備よろしくー!
医師B、彩莉の右脇の下リンパをプローブで確認、モニターに目をやったまま
医師B「今日、これから腕が上がらなくなるかもだけど、日がらで治るから心配しなくていいよ」
≪15≫
彩莉、左脇の下に細胞診の注射針を刺されながら
彩莉(は? 腕が上がらない? いや、いや、それ先に言ってくださいな。私、自転車で来たのに……)
■国道沿いの道
自転車道を軽快に走る彩莉
彩莉(N):とはいえ特に腕が上がらなくなることもなく自転車で帰宅。
■自宅
ほっとした様子でコーヒーを飲んでいる彩莉
彩莉(N):これで終わりかなと思っていたのですが……
≪16≫
■系列病院_乳腺科診察室
診察室に入る彩莉
彩莉「失礼します」
医師B、モニターをじっと見ている
彩莉(なんか難しい顔してる!)
≪17≫
彩莉、少し身を乗り出してモニターを覗き込む
モニターには「左乳房細胞診クラス1、右腋下リンパ節細胞診クラス3」と表示
彩莉、真面目な顔になって
彩莉(クラス3か…)
彩莉(N):細胞診の結果について、さすがに気になっていたので、既にざっくり検索して調べてはいました。
ホワイトボードっぽい感じに表示
クラス1~2→がんではない
クラス4~5→がん
クラス3→どちらなのか微妙なところ
彩莉(N):という感じだそうです
≪18≫
医師B、真面目な顔で彩莉の方を見ながら
医師B「結果を伝えるね。左胸の方だけど、こっちは乳腺線維腺腫だ。サイズは大きいけれど心配することはないと思う」
医師、モニターに視線を戻す真面目な顔
医師B「問題は右脇の下のリンパの方だ。ガンなのか、そうでないのか判断がつかなかった」
彩莉、おそるおそると言った調子で
彩莉「じゃ、じゃあ…ガンじゃない可能性もあるんですよね?」
≪19≫
医師B、モニターを見ながら
医師B「そうだね。ただ、僕が見た限りでは細胞の顔つきが悪い」
医師B、彩莉のほうに向き直って
医師B「この段階でがんセンター等に紹介して欲しいって人もいるけど、どうする?」
ショックを受ける彩莉
彩莉(てっ…)
≪20≫
彩莉、おどおどしながら
彩莉(……展開が早すぎる)
彩莉「でもクラス3ですよね? クラス3って、がんじゃない可能性も高いんじゃ……」
医師B、頷きながら
医師B「たしかに。でも、細胞の顔つきが悪いんだ。経験上、こういう場合はたいていガンだ」
青ざめている彩莉、台詞の「転移」大文字で
医師B「そしてリンパに出ているということは、ガンはすでに転移しているということになる」
≪21≫
彩莉、どうしようという顔
彩莉(転移って…もう初期じゃないかもってこと?)
医師Bモニターにマンモグラフィー画像を映して
医師B「なのに、胸の方にそれらしいものが見えない。初めにガンが発生した場所――つまり原発がわからないんだ」
≪22≫
彩莉、戸惑い顔
彩莉(なにそれ? そんなことってあるの?)
医師B、指を3本立てて
医師B「となると、可能性は大きく3つ」
医師、指を1本立てながら、背景乳がんのイメージ
医師B「1つ目は乳がんだ。通常の検査では確認できないほどの小さな腫瘍がリンパまで転移している」
≪23≫
医師、腕を組みながら
医師B「2つ目は血液性のガンだ。血液性のガンってわかる?」
彩莉、少し首を傾げつつ、背景に白血病ドラマのイメージ
彩莉「えっと、白血病とか悪性リンパ腫とか、骨髄腫とかですよね?」
医師Bちょっと驚いて、彩莉ドヤ顔
医師B「君、詳しいね」
彩莉「これでもライターですから…」
書き文字(彩莉):医療系の仕事もしたことあるので
≪24≫
医師B、少し首を傾げながら
医師B「最後はそれ以外のガンだ。どこが原発かは不明ながらも血管を通ってガン細胞が左脇の下のリンパに辿り着いて転移したという可能性だ」
彩莉、少し困って。医師Bきっぱりと
彩莉「えっと…テニス肘とか膠原病とかの可能性は…」
医師B「それはもうないから」
≪25≫
彩莉、残念そうに
彩莉(そっか、ガンなのだけは決定か…)
彩莉、あれっとなって
彩莉(でも、どこのガンなのか全然わかんないんだよね?)
彩莉、医師Bと向かい合った状態で軽くパニック状態
彩莉(え? 私、これからどうしたらいいわけ?)
(第2話 終)
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