第3話 面倒なことになってきたような…

≪1≫

■系列病院_乳腺科診察室

 彩莉、診察室で医師Bと向かい合いながら


彩莉(とりあえずガンは確定だけど…)


 うーんとなっている彩莉、可能性1「乳がん」、可能性2「血液性ガン」、可能性3「その他のガン」と背景に表示


彩莉(どれも嫌だなあ)

書き文字(彩莉):どういう究極の選択だよ


 医師B、小さく咳払いして


医師B「で、これからの話だけど…」


≪2≫

 医師B、心配そうな顔で


医師B「リンパを取り出して検査をする必要が今後出てくるかもしれない」


 彩莉、真面目に聞く


医師B「ただ、あの検査は確定診断が出せるが、腕が動かなくなる副作用が出る可能性がある」


 医師B、彩莉をまっすぐ見ながら


医師B「ガンの疑いは消えました。でも腕は動かなくなりましたってわけにいかないだろ?」


≪3≫

 彩莉、思わず自分の右腕を見ながら


彩莉(腕が動かなくなるのは困る。利き腕だし……)


 医師B、電子カルテに向き直って


医師B「先にPET検査をしよう。それにMRI。まずは原発を見つけないとな」

彩莉(N):PETは全身を調べてガン細胞がどこにあるかを調べる検査機器なのですが、この病院にはありませんでした


≪4≫

 医師B、受話器を取って、少しご機嫌。彩莉、固くなって座っている


医師B「PETは東京にいい検査施設があるんだ。あ、君、喘息ないよね」


 彩莉、少し戸惑って小さな声で


彩莉「あります…」


 医師B、受話器を耳に当てたまま聞こえなかった感じに


医師B「え?」


≪5≫

 医師B真面目な顔で見ている、彩莉戸惑いながら


彩莉「喘息あります。あ、でも、すごく軽い…」


 医師B、受話器を戻す。彩莉戸惑ったまま


医師B「じゃあ、ダメだ」

彩莉「え?」


≪6≫

 医師B、椅子をぐるりと回し、こちらに向きなおる。


医師B「癌を見つけるためのMRIは造影剤を使用するのが一般的だ」


 医師B、真剣な顔で


医師B「だけどこの造影剤、喘息患者が使った場合、心筋梗塞を起こすことがある」


 彩莉、驚く


≪7≫

 医師B、諭すように

 

医師B「検査のために心臓止まったってわけにいかないだろう?」


彩莉(N):結局、四ツ谷の検査施設にPET検査のみを依頼。


 MRI検査とマンモグラフィーの検査をしている彩莉


彩莉(N)混んでいるから少し先になるので、まずは今の病院でもう一度、マンモグラフィーと造影剤を使わない普通のMRIで精密検査を行うことになりました。


≪8≫

■国道沿いの道

 自転車で帰宅する彩莉


彩莉(なんだか面倒なことになってきちゃったな…)


 イメージ背景の医師B


医師B「これはおそらくうちの病院では対応しきれないガンの可能性が高いから…」

彩莉(実際に治療するための転院先を考えておかないといけないのか…)


≪9≫

■自宅

 駐輪場に自転車を止めながら


彩莉(入院ってことになると家族の世話になるわけだけど…)


 夜遅く、疲れ切った様子で帰ってくる夫のイメージ


彩莉(夫は連日、夜遅くまで仕事だからちょっと頼れないし…)


 彩莉、玄関に入る。


彩莉「ただいまー」

息子(声のみ)「おかえりー」


 和室で学ラン姿の息子が寝ころびながら漫画を読んでいる


彩莉(中学生の息子に頼るのはさすがに厳しいよな…)


≪10≫

 彩莉、冗談っぽく。息子、のんびり漫画を読んでいる状態


彩莉「ねえ、もしなんだけど、私が入院したら着替えとか持ってきてくれる?」

息子「えー、やだー」


 彩莉、笑いながら


彩莉「えー、ひどい」

彩莉(言い方が悪かったか)


 彩莉、コーヒーを淹れながら


彩莉(まあ思春期真っ盛りの息子に下着の洗濯とかも頼むのもちょっと…)


≪11≫

 彩莉、コーヒーを飲みながらPCを立ち上げる


彩莉(こりゃお母さんに話すしかないかな…)


 彩莉、キーボードで入力しながら


彩莉「あ、そうだ。PC立ち上げたついでに…さっき聞いたこといろいろと調べてみよう。まずは…造影MRIと喘息」


≪12≫

 彩莉、キーボードを叩きながら


彩莉「てか、そもそも造影MRIってなんなの?」

書き文字:さっきやったMRIもなんとなくしかわかんないし…


 画面を見ている彩莉、背後にMRIの機材のイメージ


彩莉(N):MRIとは核磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging、頭文字をとってMRI)のことです。


≪13≫

 ちょっと慌ててる彩莉

 

彩莉(N):被験者に高周波の磁場を与え、人体内の水素原子に共鳴現象を起こさせ…

彩莉「いや、難しいことはどうでもいいや。要するに?」


 ふむふむとなっている彩莉、背景にMRIデータのイメージ


彩莉(N):強力な磁場を利用して、人体から得たデータをコンピューターで解析し、人体の断面図を得る検査方法です

彩莉「そういえば医療ミステリにはMRIの磁場を利用したトリックとかあるよね。でもこの写真はCTとよく似てるけど、CTとはどう違うの?」


≪14≫

 背景にCT機材のイメージ、それを指さしている彩莉


彩莉(N):CTはコンピュータ断層診断装置(Computed Tomography)のこと。X線を利用して人体の断面図を得る検査です。

彩莉「って、見た目からしてMRIと似てない?」

書き文字:区別がつかないよ


 へーという顔の彩莉、背景にCTとMRIの違いの表示


CTとMRIを比較 


彩莉(N):他にMRIのほうが音がうるさいとか装置が狭いとかもありますが…

彩莉「放射線を使うか磁気を使うかの違いね。MRIって被爆しないんだ。意外…」


≪15≫

 彩莉、キーボードに入力、背景に看護師に造影剤を注射される人のイメージ


彩莉「じゃあ造影MRIっていうのは…」


彩莉(N):病気や検査部位によっては、造影剤を静脈注射して、MRI検査をすることで、より精密な結果が得られるようです。


 画面を見ている彩莉、背景に造影剤の副作用を表示


造影剤副作用


彩莉(N):その際、約1~2%と非常にまれにではあるが、この造影剤の影響で下記の副作用が起きることがあるらしいのです。


≪16≫


 真剣な顔で画面を読んでいる彩莉


彩莉「ただし喘息患者になると、副作用の可能性が10倍に跳ね上がります…え? ということは」


 彩莉、考え込むような表情で


彩莉「喘息患者は10~20%の確率でなにかしらの副作用を起こすってこと?」

彩莉(N):ただしこれは蕁麻疹のような軽微なものを含めてなので、心停止だけを調べてみると通常は1万人に4人以下。喘息なのでこの10倍の頻度となると…


≪17≫

 彩莉、うーんと考え込むような表情で


 彩莉「10倍にして考えれば1000人に4人以下。つまり0.4%以下。このぐらいなら行ってもいいような気もしないでもないな…」

彩莉(N):検査のためだけに死亡リスクがあるのはということで喘息患者に造影MRIは禁忌となっているようです。


■系列病院_外観


T:数日後


■系列病院_乳腺科診察室


 医師Bの説明を聞いている彩莉


彩莉(N):案の定というか、通常のMRIの画像は不鮮明で何も判明しませんでした。相変わらず痛いマンモグラフィもご同様…

医師B「まずはPET検診を受けてみないとどうにもならないね」


≪18≫

 彩莉、少し暗い顔。医師、普通の調子で


医師B「で、紹介してもらいたい病院は決まったかな?」


 彩莉、真面目な顔で


彩莉「同居家族が男だけなので、やっぱり母と妹のいる実家の近くの病院かなと考えてるんですが…」


 医師Bと話している彩莉


医師B「なるほどね。実家どこ?」

彩莉「実家は…」


≪19≫

■自宅

 固定電話をかけている彩莉、電話の向こうで神妙に聞いている母


彩莉(N):そんなわけで実家の母に電話することにしました


 受話器を耳に当てて話している彩莉


彩莉「でも喘息だから造影剤が使えなくて…」


 なんとなくドヤ顔の母


母「あら、造影MRI? 私も受けたわよ」


≪20≫

 受話器に耳を当てたまま目を丸くしている彩莉、背景に「はあっ?」という大文字


彩莉「待って! お母さん私よりひどい喘息だよね? 受けられたの?」


 受話器を耳に当てた母、ニコニコ笑いながら


母「喘息? そんな余計な事言わなかったわよ。だって症状ないし」


 受話器に耳を当てたまま慌てたまま目を丸くして慌てた様子の彩莉


彩莉「症状ないって…! だって毎日薬使ってるじゃないの! 薬使ってるから症状ないんでしょ!」


≪21≫

 受話器に耳を当ててにこにこしたままの母


書き文字(母):そんな怒んなくたって…

彩莉(受話器の向こうから)「そういうの喘息って言うの! 大丈夫だったの?」


 母、思い出しながら。彩莉、受話器の向こうで真面目な顔で聞いている


母「えっとね、MRIの検査が終わって帰ろうとしたんだけど…」


≪22≫

■大学病院

 ソファに座って腕を掻いている母


母「いきなりすごい蕁麻疹が出てきちゃって、痒くてしょうがないの」


 母の隣に座っている妹「診てもらったら?」と言っている感じ


母「で、診てもらった方がいいかもってことになってね」


 妹、受付に状況を説明に行く。ソファに座ったままぼーっと見ている母


母「で、受付に蕁麻疹が出ちゃったって言いに行ったらね…」


≪23≫

 慌てた様子でソファの母の前に駆け寄ってくる看護師


 さらに別の看護師が車イスを持ってくる


 母、車いすに乗せられて病室へ


 病院のベッドに横たわる母、慌てた様子の医師や看護師に囲まれている


≪24>

■実家


 受話器を耳に当てている母


母「…って感じにその後、半日入院の大騒ぎ。みんな大げさよねえ」

彩莉(電話の向こうから)「大げさじゃないし! お母さんが悪いんでしょ!」


■自宅


 受話器を耳に当てて頭を抱えている彩莉


彩莉「もー、なんでそんなこと黙ってるかなあ」

母(電話の向こうから)「あら、ちゃんと話したわよ」


 電話している母と彩莉、デフォルメキャラかなにかで、母ニコニコ、彩莉ふーんと流している感じで

 書き文字(母)「検査の後、蕁麻疹が出たんでなんか様子見されちゃって大変だったのー」

 書き文字(彩莉)「薬疹かな。まあ大丈夫だったならいーんじゃない?」


彩莉(そういえば…) 


≪25≫


 彩莉、こめかみに指を置きながら


彩莉「とにかく心停止の副作用じゃなくて良かったよ」

書き文字(彩莉):既往症はちゃんと申し出てね!

母(電話の向こうから)「はいはい」


 彩莉、呆れた顔で


彩莉「ほんっと、お母さんって能天気よね」

母「そう? でもほら自分は絶対大丈夫って気がするし。彩莉も大丈夫よ! ガンって言ったって叔母さんみたいな例もあるし…」


 彩莉、ああと思い出し、大叔母のシルエット


彩莉「大叔母さんか…」

彩莉(N):そういえば私には、末期ガンを完治させて奇跡と言われた大叔母がいたのでした…


(第3話 終)

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腫瘍がない!?——オカルトガンになった私 麻保良 @dorichu

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