腫瘍がない!?——オカルトガンになった私

麻保良

第1話 乳ガン検診に引っかかってしまった

≪1≫

■自宅

 据え置き電話の横に椅子を置いて座りながら話している彩莉


彩莉「…ってことで、4月×日に検査することになったのね」


■実家

 母、受話器を耳に当てながらちょっと怒ったみたいな顔で


母「なにそれ? 2週間も先じゃないの」


■自宅

 受話器を耳に当てながら彩莉少し困った顔で


彩莉「そうだねえ」

母(受話器の向こうから)「精密検査になったの2月でしょ? 癌は早期発見早期治療だって言うのに、もう2カ月も経っちゃってるじゃない。いったいいつになったら…」


≪2≫


 彩莉、ため息交じりで受話器を戻す


彩莉(いつになったら? それは私がいちばん思ってることだよ…)


■白背景

 軽く会釈する感じで自己紹介する彩莉。左背後に浅見光彦風の男性イメージ


彩莉「はじめまして。フリーライターの森田彩莉です。まあ、フリーライターにも色々ありまして、フリーライターと言うと、事件とか調べる人みたいに思う人もいるみたいですが…」

書き文字:事件を調べるのはルポライター、浅見光彦はトラベルライターですね


≪3≫

 彩莉、にこっとして。背後に漫画・ゲームのイメージ


彩莉「私の場合は主に漫画やアニメのキャラクタームックの作成。あと、推理ゲームや乙女ゲームのゲームシナリオを書いたり、ウェブ漫画の原作等にも関わっています」

書き文字:平たく言っちゃうとミステリと女性向けに特オタク系ライターですね


 自著の書影


彩莉「推理クイズの児童書も出しているので、そちらで御存知の方もいるかもしれません」


 Tシャツ&スパッツ姿でお稽古仲間とバーレッスンをする彩莉


彩莉「今はすっかり元気になって、趣味のクラシックバレエなどを楽しんでいる私ですが…」


 彩莉、真剣な様子で


彩莉「今から6年前、正体不明の癌が見つかり、検査と治療に奔走することになったのです」


≪4≫

 ツッコミ役としてのモブ読者(ガキ大将風?)とこの野郎と思いつつ笑顔で対応する彩莉


モブ読者「は? 何言ってんの? 癌だってわかってるなら、別に正体不明ってことないじゃん」

彩莉「そうなんだけど! 癌だってことしかわからなくて、どこの癌なのか、なかなかわからなかったの」


 モブ読者、ちょっと驚いて、彩莉真面目な顔で


モブ読者「なにそれ? そんなのあるの?」

彩莉「私もこの時、初めて知ったんですが、そういう癌もあったんです。それが…」



 彩莉、真面目な顔で、「オカルト癌」大文字でバーンと


彩莉「オカルト癌(潜在性癌)です」


≪5≫


■自宅

T:2016年2月


 A4ぐらいの紙を見ながら、うんざりした表情をしている彩莉


彩莉「ええ~、またですか?」


 『左乳房要再検査」と大きく書かれた紙を見ながら考え込んでいる彩莉


彩莉(N):人間ドックで行った検診専門施設から乳がんのマンモグラフィー検診の結果として「左乳房要再検査」という通知が送られてきました


≪6≫

 自分の左乳房をぐいっとつかんで確認する彩莉


彩莉(触った感じ、しこりっぽいのはないし)


 彩莉、ため息を吐きながら


彩莉「面倒くさいなあ…」

彩莉(N):この時の私は特に自分が病気だとは全く思っていませんでした


 憂鬱そうにパソコンのモニター画面を見ている彩莉(仕事をしている)


≪7≫


彩莉(N):私がこの検査結果を重要視しなかったのには理由がありました。

彩莉(…どうせ前回と同じ結果でしょ)


 パソコンで作業をしている彩莉の後姿


彩莉(N):実は左乳房が乳がん検診で引っかかったのは2度目だったのです。


■大病院_検査室前のソファ

T:さらに4年前


 ソファに座って検査の順番待ちをしている彩莉、心配そうな表情


彩莉(再検査なんて初めて…)


 息子、夫の顔を思い浮かべながら


彩莉(もし乳がんだったら、どうしたらいいの?)


≪8≫

 名前を呼ばれて、あわてて立ち上がる


看護師(画面外から)「森田さん、検査室にどうぞ」

彩莉「は、はい」


■大病院_マンモグラフィー検査室


 おどおどしている彩莉、マンモグラフィー


検査技師A「上半身を全部脱いで、こちらにきてください」


 カーテン仕切りの中で服を脱ぐ彩莉


彩莉(N):マンモグラフィーとは乳房専用のX線撮影のことです


≪9≫

 胸を隠しながら出てきた彩莉


 マンモグラフィーの機械の前で検査技師Aと彩莉


検査技師A「ここに左胸を置いてくださいね」

彩莉「はい」

彩莉(やだなあ…)

彩莉(N):マンモグラフィーは板で乳房を挟み、乳房を薄く伸ばした状態で撮影します


≪10≫

 マンモグラフィーの検査大宇の上に左乳房を置く彩莉、横で指示する検査技師A


検査技師A「手はここを握ってください」

彩莉(N):まずは台の上に胸を置いて


 検査技師Aがハンドルを回すと、アクリル板が狭まって胸をぎゅっとはさむ


彩莉「いっ、痛っ! 痛っ!」


 マンモグラフィーの撮影のための2枚のアクリル板に左乳房をぎゅっと挟まれた状態の彩莉、痛そう。

 技師、マンモグラフィーのハンドルを回してアクリル板を締め上げつつ


検査技師A「すぐだから、我慢してください」

彩莉「~~~~~!!」

彩莉(N):とにかくぎゅーっと締め上げられるもので物理的にかなりの痛みを伴う検査です


≪11≫

 彩莉、涙目でマンモグラフィに挟まれている。検査技師、隣室からマイクで(X線撮影なので)


検査技師A(マイクで)「では息を止めてください。…はい!」


■白背景

 アクリル板に縦に挟まれる胸の図と横に挟まれる胸の図の前でため息交じりの彩莉


彩莉「左右の胸それぞれ、縦と横から撮影します」


≪12≫

 マンモグラフィーで撮影された胸の写真(図?)を見上げながら彩莉


彩莉「乳房全体をX線撮影するためには仕方がないというのはわかるんですが」

書き文字:痛い思いを4回もするのは…


 彩莉、無痛MRI乳がん検診の機械を示しつつ


彩莉「ちなみに現在は同様の検査を痛い思いをせずにできる機械もあるそうです…」

書き文字:残念ながら、普及率が低いんですよね


≪13≫

■大病院_診察室

 マンモグラフィの写真が医師の前に映し出された状態で医師Aの前で話を聞いている彩莉


彩莉(N):数日後、検査結果を聞くため、再び同じ病院を訪れました


医師Aにこやかに


彩莉(N):

医師A「安心してください。これは良性腫瘍ですね」


 彩莉、首を傾げながら、医師気軽な調子で


彩莉「良性腫瘍というと…」

医師A「乳腺線維腺腫ってやつですね」


≪14≫

 医師Aの説明をふむふむと聞いている彩莉


彩莉(N):乳腺線維腺腫というのは、母乳を作る乳腺に小さな腫瘍(しこり)ができるものなんだそうです


 医師A、マンモグラフィー写真を指さしながら


医師A「森田さんの場合はこことこことここ。いくつかあるけど、心配しなくていいです」

書き文字(医師A):触診でもわからない程度だしね


 医師、カルテに向かって何か書きながら。彩莉、ほっとした顔で


医師A「触ってわかるほど大きくなってくるようなら、念のためもう一度検査したほうがいいけどね」


≪15≫

■自宅

 彩莉、食卓の上に置いた検査結果を睨みつけながら


彩莉(N):この経験があったので――

彩莉(どうせ今回もこの前見つかったのと同じ乳腺線維腺腫で、引っかかったんじゃないの?)

彩莉(N):…という疑念がぬぐえなかったのです


 彩莉、渋い顔をしながら


彩莉(とはいえ、このまま放置ってわけにはいかないよね。またあの病院予約するの面倒くさいなあ…)


 『左乳房要再検査』という大きな文字の下に小さく「再検査は当施設でも承ります」と書いてある


彩莉「…ん?」


≪16≫

 彩莉、検査結果の紙を手に取ってへえという顔になって


彩莉「あ! 人間ドックやったとこでも再検査できるんだ!」

書き文字:近くてキレイだからお気に入りなんだよね♪


 彩莉、よっしゃ! という顔で


彩莉「いろいろとお医者さんに説明し直したりするのも面倒だし同じところでもう一回調べてもらえばいいよね!」

書き文字:よし、善は急げだ!


 検査結果の紙を見ながら(電話番号を確認しながら)固定電話で電話をかける彩莉

 時間経過


≪17≫

■検診専門施設_検査室

 薄暗い室内

 検診用のベッドに上半身裸でお腹から下にタオルをかけられた形で横になっている彩莉

 超音波検査エコー機器は、患者さんの頭側(患者さんから見て右側)で、画面は足側を向くように配置

 横に検査技師Bが座って準備をしている


彩莉(N):検診専門施設での再検査は超音波検査エコーでした


 横になったままリラックスした表情の彩莉


彩莉(再検査がマンモグラフィーじゃなくて超音波検査エコーになったし、検査技師さんは穏やかな感じの女の人だし、こっちの施設に再検査頼んでよかった

彩莉(N):超音波検査エコーというのも乳がん検診で使用される検査機器です


≪18≫

■白背景

 説明モードの彩莉。後ろにマンモグラフィ機器と超音波検査エコー機器を並べて、モブ読者に説明


彩莉「マンモグラフィーはX線検査の一種なので、痛いだけではなく患者が被ばくするリスクがあります。それに対し、超音波検査エコーは体に超音波を当てるだけなので、痛みも体への負担もありません」


 モブ読者、不思議そうな顔で。彩莉、苦笑気味に


モブ読者「だったらマンモグラフィーなんてやらないで超音波検査エコーだけやってればいいじゃん」

彩莉「私もそうできたらいいなあと思ってるですけど…実は超音波検査エコーって検診での有効性が証明されてないんですよね」

モブ読者「はあ?」


≪19≫

■検査専門施設_検査室


 検査技師Bに乳房にエコーゼリーを塗られる彩莉


検査技師B「ちょっと冷たいですよー」

彩莉(N):超音波検査エコーの前に患部にエコーゼリーを塗られます


 プローブを彩莉のゼリーを塗った患部にあてる検査技師B、プローブに向かって矢印を飛ばして「プローブ」と記載


彩莉(N):超音波検査エコーの仕組みはプローブから患者の体内に超音波を送り込みその反射波を画像化することで体内の異常を発見するというものです


 超音波を出して飛ぶコウモリや魚群探知機を作動させて魚を探す漁船の絵


彩莉(N):コウモリが獲物を探したり、漁船がソナーで魚の群れを探すのと、同じ仕組みです


≪20≫

 検査技師、プローブを動かしながらモニターに目をやり、確認していく


彩莉(N):モニターに流れる動画をリアルタイムで確認する形になるため、静止画で確認できるマンモグラフィーよりも術者の技量差が関わってきます


 検査技師B、にこやかに


検査技師B「左胸の再検査ってことでしたよね」

彩莉「はい」

彩莉(N):そのような問題点もあるのでまだ検査の有効性が証明されていないそうなんです


≪21≫

 検査されながら彩莉、おそるおそる言ってみる。検査技師B、にこやか


彩莉「あの…左胸は前に乳腺線維腺腫がいくつかあるって言われたんですけど…」

検査技師B「ああ、そんな感じですね…」


 検査されながら、彩莉様子をうかがうような顔で


彩莉(さくさく検査している感じだな…)

検査技師B「ついでに右乳房や左右のリンパも確認しますね~」


≪22≫

 彩莉、右乳房をプローブで確認されながら


彩莉(これはやっぱり乳腺線維腺腫だったってことだろう…)


 彩莉、左脇の下をプローブで確認されながら、ほっとした顔で


彩莉(今回も空騒ぎだったみたいで、良かった良かった)


 モニターを見ていた検査技師Bの表情が突然真面目なものになる


 彩莉、検査技師Bの表情に気づく


彩莉(…あれ?)


≪23≫

 真剣な顔でモニターを見つめながら彩莉の右脇の下をプローブで確認している検査技師B


彩莉(N):不意に、彼女の手の動きがゆっくりになりました


 食い入るように画面を見つめている検査技師B、彩莉画面外から


彩莉「あの…」


 検査技師B、口元をきゅっと引き結んで向き直って


検査技師B「念のため、もう一度よく確認させてください」


≪24≫

 もう一度、彩莉の左胸にプローブを当てる検査技師B


彩莉(N):そう言うともう一度、左胸、右胸、左脇の下、右脇の下の検査が始まりました


 彩莉、検査されながらちょっと怖くなっている


彩莉(N):さっきよりももっと念入りに丁寧に…


 右脇の下の確認をしているプローブが止まる

 

彩莉(N):そして


≪25≫

 真剣な顔でモニターを見ている検査技師Bを不安そうに見上げる彩莉


彩莉(N):やっぱり右脇の下を見てる――


 不安そうな表情で、服を着ている彩莉


彩莉(N):再検査? 精密検査? そんな予感はやはり的中。


■自宅

 ポストの中に入っている検診結果の封筒


彩莉(N):数日後に届いた検診結果の書類には


 A4ぐらいの紙に大きく「右腋下リンパ腫脹 要精密検査」


彩莉(N):こんな言葉が記載されていたのです


(第1話 終)

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