第4話 俺が生徒会長!?

「はああああああ!? 俺が生徒会長!?」


 叫びすぎて、顎が外れそうになった。


「そうだ。君には今日から、レアリティ学園の生徒会長を務めてもらう」


 校長がしれっと言う。


「だけど、生徒会長って選挙とかやって決めるんじゃないですか?」


 こんなことを言っても、この校長の前では無駄なあがきのような気はする。


「選挙なら済ませておいたよ」


 どういうことだよ、一体どういうことだ。


 俺は驚きすぎて声が出ずに口をパクパクさせた。


「どういうことかって?」


 この校長、読唇術もできるのか。


「部屋にモニターがあるだろう? 今朝、他の生徒たちの部屋には、生徒会長に立候補する君の名前を表示させておいた。ついでに、タッチパネルで信任投票もやっておいたよ」


 校長が、グワハハと豪快に笑う。


「不信任が一票だけあったけどね、生徒会長は君に決まったよ」


 校長が僕の背中を勢いよく叩いた。


「不信任が一票? 不信任に入れたの誰だよ」


 不信任が複数いるよりも、なぜか1人だけの方が傷つく。勝手にやられた選挙で、なんで俺が落ち込まなきゃならないんだ。


「一票位気にするな。そうか、そうか伏木君。やる気満々のようで、僕は嬉しいよ」


 誰がやる気満々だって?


「僕には生徒会長なんてとても……」


 いや、生徒会長くらいならやってもいいか。学園のトップだぞ。かっこいいじゃないか。


 立派に生徒会長を務めて、不信任に入れたやつを後悔させてやる。


 って、ちょっと待てーい!


 なんで俺、やる気になってんだ。元々、スパイ探しの話ではなかったか? 生徒会長の話にすり替えられて、うっかり引き受けるところだった。


「でも、俺なんの取り柄もない一般の男子高校生ですよ? 一人でスパイを探し出すなんて……」


「そう言うだろうと思ってね」


 校長がにやりとする。


「信頼できる生徒に、副会長を務めてもらうことになっている」


 全く準備周到だな。


 だが校長の策略には、はまらないぞ。絶対に断ってやる。この校長にはやんわり伝えてもダメだ。はっきりと言ってやる。


 意を決し大きく息を吸ったとき、校長室の扉がノックされた。


「いいタイミングだ」


 校長がポンと手を叩いた。


「入りなさい」


 校長室に入ってきたのは、白の詰襟ジャケットに黒いタイトスカートの制服を着た女子生徒だ。柔らかそうな茶色い髪に、輝きのある大きな目には見覚えがある。


 昨日の入学式で、隣の席だった音成響だ。


「響さんには、もう全部話してある。スパイ探しの件も、副会長の件も快く引き受けてくれるそうだ」


 心なしか、校長は『快く』のところを強調して言っているように聞こえた。


 えっ。俺、断りにくいじゃないか。


 響が軽やかな足取りで、俺の前まで歩いてきた。


「はじめまして」


 響の一言で、俺は鬱になった。


 はじめましてじゃねーだろ。昨日喋ったぞ。もう俺のこと忘れたのか? 俺ってそんなに存在感ないのかよ。


「私、音成……」


「響だろ?」


 語尾にイラつきが出てしまう。


「あ、うん。なんで知って……」


「君とは昨日喋ったから。俺、伏木真人」


 響が助けを求めるように、校長に視線を送る。


「まぁまぁ。伏木君の方は、響さんを知っていたらしいな」


 いやいや、こいつも俺のこと知っているはずだろ。


 あ、あれか。もしかしたら試験中のアンドロイドだから、記憶が混乱しているだけなのか。だとしたら、嫌な態度とっちまったな。


「伏木くん」


 響が俺の機嫌をうかがうように、上目遣いをする。


 俺がうん? と首をかしげると、響が笑った。


 にこっ。全身全霊の天使の微笑み。


 か、可愛いいやいやいやいや、そう簡単に笑顔に騙されるな。


「これからよろしくね。生徒会もスパイ探しも一緒に頑張ろっ!」


 響が右手を差し出してきた。


 無視するわけにもいかず、俺も右手を差し出す。


 響がぎゅっと俺の右手を握った。響の手はふわっと柔らかい。


 温かいな、そう思った瞬間に響の手は離れていった。


「というわけで、伏木君。頑張ってくれるね?」


 校長が念を押すように聞いてきた。


 響の手の感触が、まだ俺の右手に残っている。


 俺は自分の右手をじっと見つめた。


 握手。


 これは単純な挨拶を意味しない。


『生徒会もスパイ探しも一緒に頑張ろっ!』に同意したことを意味する握手だ。


 断れる状況ではなくなった。


 校長と響が期待を込めた目で、俺を見てくる。


「頑張り……ます」


 ついに俺は承諾してしまった。


 まぁ、なんとかなるだろ。

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