第2話 緊急任務

『ピピピピピピ』


 何の音だ?


『ピピピピピピ』


 音はまだ続いている。


「なんだよ、うるせーな」


 俺は手探りで、枕元の目覚まし時計を止めた。


『ピピピピピピ』


「なんで止まんねーんだよ」


 目覚まし時計のボタンは、確かにオフにしたはずだ。


 俺はしかたなしに起き上がった。


 窓からの日差しが眩しい。目が開けられず、薄目で部屋を見渡す。


『ピピピピピ。緊急連絡が入っています』


 抑揚のない、機械音声がそう告げた。


 音の正体は、目覚まし時計ではなく、壁に設置されたモニターからだった。


 モニターのサイズは縦30センチ、横50センチほどだ。


「俺の部屋に、こんなモニターあったか?」


 寝ぼけた頭で考える。


「そうか。ここはレアリティ学園の寮だった」


 昨日から始まった寮生活。レアリティ学園の生徒たちは全員、学生寮に入る決まりになっていた。


 というのもリアリティ学園は、人工的に作られた離島に建築されていた。俺が元々住んでいた東京から、気軽に通える距離ではなかった。


 授業が行われる校舎は東館。寮があるのは西館だ。西館の3階が女子寮、2階が男子寮になっていて、1階には食堂がある。


 一人部屋は8畳ほど。備え付けのベッドと机。カーテンや家具は白を基調としていて、極めてシンプルだ。部屋以外には風呂、トイレ、洗面所がある。


 相変わらず騒がしい音を立て続ける壁のモニター。画面には、緊急連絡の文字が点滅していた。


 俺はのそのそとベッドから立ち上がり、モニターの画面をタッチした。


 音が止まり、連絡事項が表示される。


『緊急任務が発生しました。始業開始15分前に、校長室に来てください』


「は?」


 俺は時計を見た。


「あと5分しかねーじゃん」


 すぐに顔を洗って髪をセットして、制服に着替えなくてはならない。東館と西館は連絡通路で繋がっているとはいえ、間に合うだろうか。


「くっそー」


 朝食をとる時間がない。寮の食堂で初めて食べるご飯を楽しみにしていたのに。 


 昨日は入学式の後、身体検査があった。身長、体重を測った後、MRI装置のような筒状の機械に寝かされて、そのまま本当に寝てしまったらしい。


 あの装置はそもそもアンドロイドのための検査機だ。本来なら俺には必要のない検査だが、人間だということを隠している以上は、みんなと同じように受ける必要があった。


 その後なんとか部屋に戻って、シャワーを浴びてまたすぐに寝てしまった。


 一度、夜に目を覚ました記憶はある。確か時計の針は、午後8時を指していた。あの時起きればよかったと今更ながら後悔する。


 つまり昨日の夕食は、食べ損ねたってわけだ。


 初めての土地に、見知らぬ生徒たち。新入生代表の挨拶。大企業との契約。緊張と期待とプレッシャー。俺は自分で思っていた以上に、疲れていたのかもしれない。


 俺はもう一度、時計を見た。


「あれ? 昨日の夜は、時計の針で時間を確認しなかったか?」


 目覚まし時計の時刻は、デジタルで表示されている。俺の部屋に時計は一つしかない。寝ぼけていたのだろうか。


「まぁいいや。う~、それより腹減ったなぁ」


 俺は文句を言いつつも、制服のジャケットに袖を通した。

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