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翌日、朝からあったバイトがお昼過ぎに終わりいつもの如く丘へ行く。


バイトで疲れているが今からフルートを吹けるのだという楽しみと、あの安心できる場所に早く行きたいという思いで足取りは軽い。



そして丘に着き今日もベンチでいつも通り少しフルートを、と思ったが今日はそうはいかないみたいだ。




何故なら、いつも座っているベンチには昨日会った彼が、昨日とは違う柄の着物を着て座っていたのだから。




今日は帰ろうか。


どうせ吹けなさそうだし、部屋でも吹けるのだし。


でも、変に逃げるようなことしてもなあ。



遠目からそれを見て悩んでいると、彼は私に気づき昨日と同じように微笑んであいさつをした。




「こんにちは」


「……こんにちは」




あいさつをした後、また少し後悔する。


昨日はまともにあいさつが出来なくて後悔をしたから今日こそは自然なあいさつをしようと思ったのだが、やはり怪しさは晴れることはなくて少し、間が空いてしまった。



人見知りだし、なんて言い訳するがあいさつは基本なのにどちらにしろ私はダメなことをやっている。成長しないなあ。



自分の不甲斐なさを実感しつつ彼の側へ行く。




「天気がいいですね」


「…そうですね」


「雲が綺麗だ」




そう彼は言い、空を見上げた。




きっと彼は、私と年はそこまで離れてはいないと思うが年上だろう。


同い年の男の人とは違い、少し余裕があるような感じがする。



これが大人の余裕というものなのだろうか。




それと彼からは柔らかい雰囲気が漂っている。と、私は思う。




会ったばかりであいさつしか交わしていないのに何故こんなに彼のことが分かるのかとても不思議だがそれはきっと、彼の容姿と表情のおかげなのだろう。



それより今気がついたけど、彼がここにいるってことはやっぱり今日はフルート吹けないよね…?



吹きたかったのにな。



でもしょうがないよね。


彼の方が先に来ていたんだもん。




フルートが吹けなくて少し残念がる私を知ってか知らずか彼は問うた。





「今日もフルート、吹くんですか?」





あいさつと同じ柔らかい表情と声色で。



遠慮気味に「はい」と正直に答えると彼は感嘆な声を上げた。




「フルートを吹くんだったら僕、邪魔ですよね」


「え、そんなこと無いですよ。絶対に吹かないといけない訳ではないので今日は大丈夫です。全然気にしないでください」


「そう?」


「はい。それに貴方の方が先にいらしていたんですから邪魔なのは寧ろ私です」


「…じゃあ、お言葉に甘えてもう少しここにいようかな」




フルートを吹きたいと思っていたが立ち上がろうとした彼を思わず制していた。


だって、この場所は私だけの場所じゃないし、逆に私がここでゆっくりしていた彼の邪魔をしたのかもしれない。

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