長男の苦労
第20話
学校が終わった長男が真っ暗な空を見上げて、さあ帰ろう、と意気込んで駅に向かっていれば、
「あれ?お兄?」
毎日聞く声が聞こえた。
「…純香。こんなところで何してるの」
「遊んでるのー」
長男は次女のくったいない笑顔を見た後、後ろにいる2人の男たちに目を向ければ、こんばんわー、と軽い挨拶が飛んでくるのでそれに笑みだけを返す。
「お兄、今帰り?」
「そうだけど」
「遅くまで学校なんて大変だね、お疲れ様~」
「ありがとう。でも、純香。遊んでるってこんなに遅くまで?」
「えぇ?遅いかなあ?」
「だってもう8時だぞ」
「お姉には遅くなるって言ってるもん」
「……」
相変わらず悪気のない笑顔に何も言い返せなくなっていると次女の友人が長男をじろじろと見る。
「…どうかした?」
居たたまれなくなり何とか笑顔を作って二人に訊く。
「あ、すみません。お兄さん、かっこいいなって思ってつい」
「それ、俺も思った」
「あはは、ありがとう」
「お兄さんは大学生、ですよね」
「そうだよ」
「潤弥だけでなくお兄さんも頭いいって噂は本当なのか」
「そうだよー。私以外みんな頭いいんだよ!」
「お前は何を間違ったんだよ」
「分かんなーい」
けらけら笑っている高校生たちに頭を抱えそうになるのを長男は必死に抑える。
「純香、俺は先に帰るけど、遅くなり過ぎないようにするんだよ?」
「え?一緒に帰らないの?」
「は?」
「私、お兄と一緒に帰る気満々だったんだけど」
次女のその言葉に長男の思考が停止する。
「いや、だって、友達は?遊ぶんじゃないのか?」
「あ、そっか」
次女はそう言ってくるっと友人の方に向き、
「私、お兄と帰るから!また明日ね!」
これまた明るい笑顔で言い放った。
「はあ!?これからカラオケ行こうって言ってたじゃん!」
「カラオケなんていつでも行けるでしょ!」
「純香ノリわりーよ」
「だってお兄と帰れるなんてレアなんだよ!?」
「「ブラコンか!」」
友人二人のツッコみも虚しく、次女の意志は固いらしい。
長男の腕に自信の腕をがっしり絡ませている。
「二人も早く帰ってお母さんのご飯食べなよ」
「いや、あんだけ食ったのに入らねえよ」
「私は帰ってからもちゃんとしっかり食べるんだから二人も食べなきゃ!」
「おま、さっき死ぬほど食ってたじゃねえか…」
「純香って割と食うよな」
「俺らより食ってたもんな」
「レディに失礼よ!じゃあ、またね!」
次女はそう言って友人に飛び切りの笑顔で手を振った。
それに二人は少し頬を赤らめていたのを長男は見逃すわけがなく、二人に静かに微笑んだ。
その長男の笑みに二人は悪寒がしたのであった。
長男と次女は帰路につく。
「今日はどこ行ってたの?」
「えっとね、パン食べ放題のカフェに行って、服見てた」
「パン?」
「うん。美味しかったんだよ~」
「それはよかったな」
「今度みんなで行こうね!」
「そうだな。それより純香」
「なぁに?」
「あの二人とはどういう関係?」
「友達だよー。クラスが一緒なんだ!」
「……そうか。変な奴には引っかからないでくれよ」
「えぇ?二人とも良い人だよ?お兄が心配しなくても大丈夫だよ」
「はは、そっかそっか」
「でも、潤弥も誠弥もお兄と同じ事言ってたけど、私ってそんなに危なっかしいかな?」
「清香以上に危なっかしいよ」
「お姉も危なっかしいの?」
「勿論。放っておいたら余計な虫をひっつけてきちゃうからね。本当に困るよ」
「余計な虫って?」
「純香にもつきかけてるからね。気を付けるんだよ?」
「?????」
長男の言っている意味が全く分からない次女は暫く悶々としていた。
「んー、分かんない!」
「あはは、まあ分からなくてもいいよ」
長男はそう言って次女と腕を組んでいない方の手で次女の頭を撫でた。
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