噂の書店ガール

第19話

ある街の一番大きな書店には超絶美女な店員がいると有名で、その美女にレジが当たればお客さんは皆揃って頬染め、その日はハッピーになると噂である。





「あれ?」




その書店のある最寄り駅で電車を降りた佐々木家三男は見知った後ろ姿を見かけ、声をかけた。




「雅君」


「え、誠弥?珍しいね」




声をかけられた長男は驚きながら声のした方を振り返り言う。




「欲しい本があって探し回るのも面倒だから確実にあるだろうと思って来てみた」


「なるほどね。確かにあそこ大きいもんね」


「雅君は?」


「俺も研究で必要な資料を探しに来たんだ」


「ふうん」




そう会話をしながら兄弟は書店へ向かう。




「誠弥は何階?」




6階建ての書店につきエレベータを待っている間、長男は三男に訊く。




「3階」


「3階って言うと洋書だけど」


「読めって言われた」


「先生に?」


「うん。意味わかんないよね」


「あはは。誠弥、英語苦手だからなあ」


「雅君は何階?専門書買うんでしょ?5階?」


「そうだね。よく専門書って分かったね」


「大体雅君が買ってくるの専門書だからね。あと研究で使うって言ってたし」


「よく見てるね」


「…まあね」




長男に驚かれ三男は少し照れている。


それに気づいた長男はバレない様に小さく笑って一緒にエレベーターに乗り込んだ。




「……俺も誠弥について行こうかな」




5階のボタンを押す寸前で長男は言った。




「え、なんで」


「いいことあるかなあ、と思って」


「??」




長男の楽し気な笑みに三男は不思議に思っていればちょうど目的の3階に到着した。


三男は目的の本がどこにあるのか分かっているのかすたすたと歩き、それにきょろきょろとあたりを見ながらついて行く長男。




「あったあった」


「欲しかったのはそれ?」


「うん。取りあえず知ってる話から読めって言われたから」


「それなら理解しやすいね……あ、見つけた」




長男は三男の話を中断させて歩き出した。




「え?何?雅君どこ行くの?」




唐突過ぎる長男の行動に三男は戸惑いながら必死についていくと、長男は作業をしている店員に、



「すみません。ちょっといいですか」



少し、いや、大分声色を変えて長男は言った。




「はい、なんでしょうか…………は?」


「は?は酷いんじゃない?俺はお客さんなんだけどなあ」


「……何の御用でしょうか?」




長男の至極楽し気な笑みとは正反対に、不機嫌オーラ全開の笑みを長男に向けて問う店員、基、この書店で一番美人と有名な佐々木家長女。


それを見た三男は長男の一連の流れを一瞬で理解する。




「というか何で私がこの階にいるって知ってるのよ」


「え、この前自分で英語が話せる話をしたら洋書の方に移動になったって嘆いてただろ?」


「……そう言えばそうだったわ」




長女は額に手を当てて自分の行いにまた嘆く。




「それで、態々何しに来たのよ」


「特に用はないけど、割引してほしいなーなんて」


「はあ?なんで私があんたの為に割引しなきゃならないのよ。無理よ」


「…雅君、もしかしていいことって清ちゃんの社割の事?」


「お、察しがいいな」


「する訳ないでしょ。馬鹿じゃないの」


「んーやっぱ駄目か。専門書って地味に高いんだよな」


「やっぱもなにも当たり前でしょ。まあ、誠弥の本は私が買ってあげるけど」


「は?ナニソレ。兄弟内差別じゃない?」


「こっちがナニソレよ。可愛い弟の欲しいものを買ってあげるのは当たり前でしょう?」


「俺も一応弟なんだけど」


「こういう時だけ弟面するな。そもそも昔にどっちが上か下かは決めないって約束したでしょ」


「いつも姉面して威張ってるくせに」


「黙れ」




長女は長男にそう一喝して三男の手から『星の王子さま』を受け取る。




「というか誠弥、これ読むの?」


「先生に読めって言われた」


「これなら持ってるから私のでよかったらあげるわよ。買うならもっと興味のある作品にしなさいよ」


「……特にないんだよなあ。そうだ、俺の買うなら雅君の欲しいもの買ってあげてよ」


「「え?」」


「だって雅君の本の方が高いし」


「なんていい弟なの…」


「誠弥、帰りに好きな物買ってやるからな」


「雅君、それ意味ないよ。本末転倒だよ」


「仕方ないわね。誠弥に免じて雅弥の本も買ってあげるわよ。帰ったら何割かお金返してよ」


「お金返すのか。でもありがとう」


「どういたしまして」


「それじゃあ5階に向かおう」


「待って。私、仕事中だから。帰りに買って帰るわ」


「出版社とタイトル送っとく」


「はいはい」




それだけ言うと長男はエレベーターに向かって歩き出した。


それに慌てて三男は長女に手を振って長男の後を追った。




その後、長女たちのやり取りを一部始終見ていた他の女性店員から「あのイケメン二人は誰だ」と質問攻めにあったのは言うまでもないだろう。

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