雨の日の長女と次女

第17話

ある雨の日。


佐々木家の空気は何処か張りつめていた。




「…ね、ねえ、お姉。今日、一緒にお買い物に行く約束してたよね?」


「そうね」


「ランチも行くって言ってたよね?」


「言ってたわね」


「もう、お昼だよ?」


「そうね。お腹空いてきたわね」


「じゃ、じゃあ、なんでまだ、準備してないの?」


「それは家に出る気がないからよ」




長女はいつも以上に不機嫌な声で断言し、次女は長女の膝に項垂れた。


そして、




「なんで今日に限って雨なのー!?」




叫んだ。




「ずっと前から約束してたのに!」


「私の所為じゃないわよ」


「お姉の所為だよ!雨の所為にしないで!」


「雨の所為で髪が決まらないんだから仕方ないじゃない」


「私だってピョンピョン飛んでるもん!」


「純香は可愛いからいいわよ。私なんて前髪が酷いのよ」


「お姉だって全然いけるよ!なんなら私がセットするから!!」




次女が必死に長女を説得しているのを男三人は静かに見ている。




「純香は何を買いに行きたいんだ?」




長男は不思議そうに隣にいる次男に訊く。




「服だって言ってたけど」


「え、また服?」


「俺も同じ言葉を返したけど怒られた」


「そう言えば純ちゃん、私はいつも服に飢えてるのって前に言ってたよ」


「女子って大変だな」


「あとお姉がずっと行きたいって言ってたカフェにも行くって言ってたな」


「なるほど。でも純香も残念だな」




長男は呆れながら呟いた。


雨の日の長女の機嫌はすこぶる悪いのである。何故なら、




「なんで私の髪だけ皆以上に癖が出るのよ。意味が分からないわ」




長女の髪質は兄弟の中で一番癖が強く、湿気の多い雨の日には言うことが利かないくらい跳ねるのである。




「そ、それは私に言われても分からないけど」


「ショートにしたくても癖の所為で鳥の巣みたいになるし」


「え?お姉、ショートにしたいの?私、お姉はロングの方が似合ってると思ってるから全然そのままでいいと思うよ?」


「……ありがとう」




次女の言葉に少し機嫌をよくした長女は意外と単純で、長男はバレないように肩を揺らす。




「清香が思っているより跳ねてないんだから行ってあげなよ」


「雅弥…」


「清香が行きたいカフェにも行く予定なんだろ?」


「まあ、そうだけど」


「あ、そうだ!皆で行こうよ!」




長男が長女に説得していれば、次女はひらめいたように言い放った。




「はあ?なんでだよ」


「そうだよ。俺も嫌だよ」




その言葉に次男と三男は一斉に反対する。




「本当に二人は引きこもりだよね」


「俺らは至って普通だ。お前が活発すぎるだけなんだよ」


「潤弥にだけは言われたくない」




また次男と次女が喧嘩が始めりそうになれば三男は、またか、と呆れた。




「純香とは前から約束してたならちゃんと行ってあげないと」




長男は三人に聞こえないように長女に言う。




「そうだけど」


「駄々捏ねるなよ。可愛い妹があんなに楽しみにしているのに」


「……」




長女は長男をじっと見つめてから、はあ、と小さくため息をついた。




「はは。ほら、早く準備しないと。純香が待ちくたびれているよ」


「分かってるわよ」




そう言って長女はやっと重い腰を上げた。




「あ、純ちゃん。清ちゃん、行く気出たみたいだよ。動き出した」


「え?あ、本当だ!」


「カフェに行きたいのは本当だし、何より前から約束してたもんね。ごめんね」


「ううん!全然いいよ!お姉ありがとう、大好き!」


「はいはい。準備してくるから待ってて」


「うん!」




長女の言葉に次女は笑顔で頷いた。




「買い物もランチも雨の日じゃなくても行けるんじゃないの?」




三男はぼそっと呟いた。




「はは、約束は約束だからね」


「まあ今回は純香が前からずっと楽しみにしてたからな」


「清香も忙しいくて一緒に遊べないらしいからね。予定が合うのが今日だったんだろう」


「なるほど」




長男と次男の言葉に三男は納得する。




「それじゃあ、行ってくるね!」


「お昼は何か適当に作って食べて。行ってきます」




準備のできた長女と次女は仲良く家を出た。




「え、俺達のご飯用意してくれてないのかよ」




長女の言葉にショックを受ける料理だけは出来ない長男に次男と三男は憐みの目を向けた。

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