長男は救世主

第13話

「ねえ、あんた達、訊いてんの?」





佐々木家のリビングで正座している高校生組の前に長女は腕を組んで仁王立ちしている。




「誰が、私のPC触ったんだって訊いてんだよ」




いつも以上の口の悪さと異常な殺気を放つ長女に三人はこれでもかと言う程に縮こまっている。




「潤弥か?」


「いえ、俺ではないです…」


「じゃあ、純香か?」


「そ、そんな訳ないじゃん!」


「となると、誠弥になるな?」


「お、俺じゃないって…!」


「じゃあ、誰だよ。勝手に消えたとか言うのか?ほら、正直に言えよ」




眉間に血管が浮き出ている長女は美人と騒がれている佐々木清香には到底見えない。



何故こんな状況になっているかというと、珍しくリビングのテーブルに置いてあった長女のノートパソコン(レポート作成中未保存)を滅多に見る機会がないということで三人はそれをまじまじと見ていた。


そのレポートを次女は声に出して読んでいたのだが、あまりにも漢字が読めておらず、加えて理解度の低さに驚いた次男と三男は紙に漢字を書いていき次女にクイズを始め、三人はテンションが上がっていき、ヒートアップし、いつの間にか誰かの手が長女のPC触れ、電源が切れ、今の状況に至る。



そんな鬼化した長女に恐怖で震えている三人はこそこそと相談する。




「おい、どうすんだよ。お姉に正直に言うのか?」


「だって、言わないと…もう後に引けないじゃん。って言っても誰が消したのか本当に分かんないんだけど…」


「俺、もう泣きそうなんだけど…」


「誠弥、私も泣きそうだから!あ、でも、泣いたら許してくれるかな?」


「そんな訳ねえだろ。馬鹿か」


「じゃあどうすんのよ…」


「おい。何喋ってんの。早く言えよ」



(((目がガチだ…!!!)))




鬼化した長女の目はそれはそれは恐ろしいもので、例えるなら人を何人か殺めてしまうのではないかと言う程、怖い。





「ただいまー…って、どうしたの」





そこへ夕飯の買い出し(じゃんけんに負けて)に行っていた長男が帰ってきたらしい。




「お、お兄…!!!」


「救世主現れた…!」


「お兄!!助けて!!」


「は?え?何?え?」


「お前ら雅弥に助け求めんなよ。お前らが正直に言えば良い話だろ?」


(ん!?なんで清香が鬼化してるんだ!?)




状況が分からないながらも冷蔵庫に買ってきた食材を入れるあたり長男は冷静である。






「で、何があったわけ」


「三人のうちの誰かが私のPCいじった所為でレポートのデータぶっ飛んだ。一発殴らないと気が済まない。ほら、早く吐けや」


「……なるほどね」


「だ、だから、分かんないって言ってるじゃん!」


「なんで分からねえんだよ。ふざけんじゃねえぞ」


「こらこら。清香。いつも言ってるだろ。言葉遣い荒過ぎだよ」


「知らねえ。私は怒ってんだよ。私の労力返せや」


「「「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!」」」




怒り狂う長女と更に震え縮こまる三人を見て長男はやれやれと首を振った。




「清香は何でリビングでレポート終わらせようと思ったんだよ」


「ずっと自室に閉じこもってたらやる気がどんどん削られていくから気分転換よ」


「三人が騒ぐって分かってるリビングでやるって事はこう言う事も想定してないといけないだろ。それに席外すなら保存するのが普通だろ?」


「…………そうだけど」


「それは清香の自業自得だ。それが嫌ならこれからは絶対に自分の部屋でやれよ」


「……」


「それで、三人はどうして初めから正直に言わなかったんだ?」


「それは…」


「お姉、怖いから…」


「はぁ。黙ってる方が怖いに決まってるだろ?清香から逃れられると思ったのか?」


「「「オモッテマセン」」」


「じゃあ、これからは正直に言うんだぞ?」




徐々に冷静になってきた長女は、長男の言葉に激しく頷く三人を見て溜息をつき、ソファに座った。




「あー、また最初からかー」


「ご、ごめんね、お姉」


「清ちゃん、ごめんなさい」


「申し訳ございませんでした、お姉様」


「……もういいわよ。大体頭に入ってるから」


「お兄もありがとう」


「本当、お前達はどうしてこう穏便に済ませられないかな」


「お姉が怖いのがいけない。私、本当に泣きそうだった」


「…俺も」


「それを言うなら正直に言わないあんた達がいけないんじゃないの」


「こら。また喧嘩するなよ。もう止めるの疲れるんだよ」


「とか言いながらまんざらでもない癖に」


「はは、お前が言うな」





長女の言葉に軽く笑う長男はこの世で唯一、鬼化した長女を止められる人物だろう。

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