佐々木家の長男

第3話

ある平日の朝。




「雅弥~、私の靴下どこにやったー?」


「お兄!これやばい!はちみつかけ過ぎた!!」


「お兄ー!聞いてよー!潤弥がまたお化粧しても同じだって言ってきたー!」


「雅君、今日学校休んでもいい?」




佐々木家兄弟は、家中の洗い物を集めている長男に一斉に言う。


その言葉達を聞いた長男は手に持っていた洗濯物が入っている籠を置いて笑いながらまずは長女の元へ行った。




「清香の靴下はちゃんと清香の部屋に持って行ったけど」


「え、嘘。なかったけど…」


「ちゃんと持って行きました。ほら、あるじゃん」


「あ、本当だ」




長女の部屋にあるクローゼットを開けて探し物の靴下をあっさりと見つけ出し、次は次男の元へ行く。




「今日は何をやらかしたの、潤弥」




たっぷりすぎるはちみつをかけてひたひたになっているホットケーキを、ケラケラと笑いながらフォークでつついている次男は実に阿呆の子である。


長男が呆れるのも理解出来るだろう。




「はちみつを傾けてもなかなか落ちてこないから逆さにしたらどばっと出てきた!こう、どばっと!」


「お前は本当阿呆だな。そりゃ、逆さにすればどばっと出てくるよ」


「ホットケーキのはちみつ漬けじゃん!やべー、見てるだけで胸焼けするー!純香に食べさせてみよ!」


「はいはい、遊ばない。純香にもあげない。清香が余分に焼いてくれてるからこれ食べな」




長男はそう言って長女が余分に作り置いていた新しいホットケーキに適量のはちみつをかけて次男の前に差し出した。




「ねえ、誠弥。私ってそんなにお化粧下手かな?」


「いや、俺化粧とか分かんない」


「でもお化粧する前と後だったら私の顔ちょっとは変わってるでしょ?ましになってるでしょ?全く同じってことはないでしょ?」


「いや、あの、うん。ソウダネ」




次女に問い詰められる三男はひきつった笑みを浮かべている。




「純香。またそんなこと言ってるのか?」


「お兄!そんな事じゃないよ!女子にはとっても大切な事なんだよ!」


「分かった分かった。あと泣いたのか知らないけど目の周り真っ黒になってるから化粧直してきな」




長男はそう言って手鏡を次女に渡した。




「ぎゃー!本当だー!誠弥!何で言ってくれないのー?」


「別にいいかなって」


「全然よくないよ!!」


「ごめんね、純ちゃん」


「許す!」




次女は三男にそう言って洗面所へダッシュした。


それを見送って長男はソファーにだらしなくもたれ掛かっている三男の傍にしゃがみ込む。




「誠弥、学校はちゃんと行かないと」


「無理。だって一時間目から体育だよ?あり得なくない?」


「確かに一時間目から体育はキツイな…ってそうじゃなくて、それは休んでいい理由にはならないからな?」


「でも…」


「でもじゃない。俺なんて一限、三限、五限って滅茶苦茶だるい時間割なんだぞ?」


「五限ってことは雅君今日帰り遅いの?」


「え?あ、うん。遅い。しかも研究室にも寄らないといけない」


「そっか。俺より面倒くさそうだね」


「まあ、そうだな」


「…雅君も頑張るなら俺も頑張るよ」


「そっか。頑張れ」




そう言って長男は三男の頭を撫で、撫でられた三男はどこか嬉しそうだ。


そして隣でその会話を聞いていた長女が、ちょろいな、なんて思っていることは誰にも内緒である。




「よし!朝ごはんも食べたしお前ら行くぞ!」


「潤弥待ってー!まだ目が書けてないからー!」


「だからお前はそんな事しても変わんないだろうが。誠弥、あいつ放っていくぞ」


「純ちゃん先に行ってる」


「薄情者―!」




嘆く次女の声を後に、次男と三男は家を出た。


暫くして次女も急いで家を出た。




「雅弥」




静かになったリビングで長女は長男を呼んだ。




「どうかした?」


「……授業の取り方下手かよ」


「いや、必修だし間埋める講義もないから仕方ないんだよ。お前と一緒にするなよ」




そんな事を言っていそいそと学校の準備をする長男は佐々木家一の苦労人だ。

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