第38話

「でもね、直ぐ近くにあった、いつも側にあった気持ちに気づかなかったのかな」


「……どういうこと?」


「やっぱり、見間違えてたんだと思う。というより、見落としていたのかな?」




可笑しそうに笑って言う旭奈の言葉が頭に入ってはすり抜けていき、俺は次の言葉ををほんの少し期待して待つ。


否、期待せざるを得なかった。



すると旭奈は秋空を見上げ、笑った。そして、俺を見た。




「祐人、ずっと私だけの白色でいてくれますか?」




微笑んで言う旭奈を思わず抱きしめそうになった。



きっとここで抱きしめても旭奈は笑って許してくれるのだろうけれど、抱きしめると涙が溢れるような気がした。


何もかも、我慢できなくなるような気がした。




「今すぐには無理だけど、ちゃんと先生への気持ちは終わりにする」




俺を見上げて言う旭奈の言葉は真っ直ぐだけれど、旭奈の目はどこか不安そうだった。


そして、紙袋を持つ手が少し震えていることに気がついた。



あぁ、旭奈も弱いんだ。


きっと皆、弱いんだ。


先生だって見せてはいないけれど、気づいてはいないけれど、弱いんだ。


だから、皆誰かに頼って、感謝するんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る