第29話
そこには予想をしていた彼が描かれていた。
やっぱり見なければよかった。
つい、そんなことを思ってしまった。
「これね、私の席の列の一番後ろから見た景色なんだ」
「……へぇ」
「この時間は、守りたいくらい大切な思い出だから」
旭奈の悪気ない説明を聞いて再度、それを見た。
最初は一瞬しか見なくて先生しか分からなかったが、よく見ると右の方に前髪を上げているのかぴょこんっと頭の上から少し髪が出ている男子生徒の後ろ姿が描かれていた。
それが堪らなく嬉しくて、堪らなく泣きたくなった。
あぁ、旭奈も同じじゃないか。
そう思ってしまった。
「…俺も、この絵好きだよ」
「本当に?」
「あぁ」
「………」
「信じろよ」
疑いの目を向ける彼女に言えば、えへへ、と先生の時と同じように、だけど想いの違う照れ笑いをした。
それでも嬉しかった。
自分でも本当か本当ではないのか分からない言葉を彼女に信じてもらおうと必死で、彼女が笑ってくれれば滑稽な自分なんてどうでもよくなった。
そんな自分が少し、可笑しかった。
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