第30話
「遅くなってごめんね」
二人の空間にいつものように彼は現れた。
先生が持ってきた用紙に学校名と名前を慣れた手つきで書き、最後にタイトルを書く。
ちらっとキャンバスの上に彩りよく描かれた、いつも俺が使っている油絵の道具達を見る。
こいつらのおかげで美術部に入って旭奈に出会えた。
ただ、彼女を好きになった時にはもう既に俺ではない違う人を想っていて、どうすることも出来なかった。
それでも俺はずっと想い続けた。
それを知っているのはずっとこいつらだけ。
道具を“こいつら”なんて表現する俺はやっぱり可笑しいのだろうか。
そう思いながらタイトルに『唯一の味方』と書いた。
「あ、祐人君書けた?」
「はい」
「ふふ、いいタイトルだね」
「ありがとうございます」
「祐人君の絵はいつも凄いのに佳作だったりするけど、今回こそは審査員の人に分かってもらえたらいいな」
「先生のおかげでここまで描けたんです。報われて欲しいです」
「そうだね。でも僕は何も教えていないような気がするよ」
「ちゃんと教えてもらいましたよ。凄く助かりました」
「そう?それならいいんだけど」
俺の言葉に先生は照れる。そして、言う。
「祐人君、描いてくれてありがとう」
そう微笑む彼は到底恨むことが出来ない位優しくて、悔しかった。
そして、旭奈が好きになるのも痛いほど納得出来た。
勝ち目のない勝負は哀れだな。
思えば小さく笑みが漏れた。
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