第12話

少し、旭奈の様子を眺める。



緊張しているのか、青の絵の具を取る時の手が少し、震えていた。


そして恐る恐るパレットに出した絵の具を筆に付けて、恐る恐る白に色を付ける。


他の色も同様だった。



なんだ、全然塗れてるじゃん。



思い、自分のキャンバスに再度向かいデッサンを続ける。





「ど、どうしよう…」




暫くして、ほんの小さく焦った声が聞こえてきた。



それに一瞬、声をかけるべきか迷った。



声をかけて鬱陶しいと思われればそこで終わりだし、放っておいたら人として終わりだろう。


しかし、俺にはそんな迷いは不要だったようだ。




「どうした?」




旭奈を放って置けない性分の所為か、つい声をかけてしまっていた。




「え、いや、何でもない…」




しかし、旭奈はどこか不安そうな目をして言う。言葉と表情が全く伴っていない。




「何今更遠慮なんかしてんの」


「え、遠慮なんてしてないよ」


「泣きそうな顔してるくせに何言ってんだよ」


「……」


「どうした?」




再度訊けば、旭奈は少し間を置いて躊躇いながら言う。




「……緑が、分からなくて」




俯いて、俺とは決して目を合わそうとしない彼女の方へ俺は静かに足を進めた。

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