第11話

それから旭奈は直ぐ様パレットや筆、絵の具の準備を始めた。





「旭奈ちゃん、絵の具なんて出してどうしたの?」




その珍しい光景を見て、先生は不思議そうに問う。




「これ、塗るんです」


「本当に?」


「はい」


「ふふ、そっかあ。楽しみだなあ」


「あ、あまり期待はしないでくださいね…!」


「えぇ?期待するよー。だって、久し振りに旭奈ちゃんの水彩が見れるんだもん」




先生は柔らかく笑って旭奈に言い、それを聞く旭奈は嬉しそうに頬を綻ばせている。




自分には引き出せなかったそれを、先生は意図も簡単に引き出してしまう。



それにまた、悔しくなる。



その誰にも知られたくない、行き場のない感情を、誰にも見つからないようにひとり静かにキャンバスへ想いを込める。





「よし、塗ろう!」




暫くして準備が出来たのか意気込む声が隣から聞こえた。


先生は用事があるのか、いつの間にか教室にはいなかった。

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