第8話

「これ、色塗ってみようよ」




コンクールの話が出てから数日後、先生は旭奈のデッサンした絵を見て言った。




「い、嫌ですよ!」


「よく描けているのに?」


「でも、塗ることを考えて描いてないので…」


「そっか…。塗ればもっと良い絵になると思うんだけどなあ」




先生は残念そうにそれを見て旭奈に返した。



色を塗れ、なんて滅多に言わないのに珍しい。


先生はどれだけ旭奈にコンクールに出て欲しいのだろうか。



準備をしていると聞こえてきた会話にそんなことを思う。




「先生の頼みでも色なんて塗れるわけないよ…」




ぽつり、先生の元から帰ってきた旭奈は机一つ挟んだ距離で呟いた。


それに聞こえない振りをしていつものように少し長めの前髪を縛る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る