第7話

「描きたいけど、怖いんだもん」


「…………」


「自分の持つ色が、自分の思っている色じゃなかった時のことを考えると凄く、怖いの」




そう言う旭奈はそれを何度体験したのだろうか。



旭奈は一年前事故に遭い、色覚を失った。


後天性色覚障害と言って「青黄異常」と「赤緑異常」の両方を患い、個人差はあるが色の見分けがつきにくいのだそうだ。



そんな絵描きにとって致命的な障害を、俺は想像することも出来ない。


況してや先天性より後天性の、本当の色を知っている人ならその障害は余程怖いのだろう。



そう思うが、やはり俺にはその怖さを計り知ることは出来ない。




「絵の具に色の名前が書かれているからそんなに間違えないんだけど、パレットに出せば分からなくなるの。混ぜれば混ぜるほど、分からない」




諦めたように笑う旭奈をこの一年で何度見ただろう。


見ている方が苦しくなるほどの笑顔だが、その笑顔を無意識に見せる彼女の方がもっと、苦しいんだ。




「……その時は、俺が教えるよ」




だからなのか、そんなことを言っていた。




「分からないなら訊けばいい」




俺が支えるから、描けよ。



そこまで言い切ることが出来なかったのは恥ずかしさと、弱さが出たのかもしれない。


それはきっと隣を歩く彼女には伝わっていない。


しかし、ありがとう、旭奈は僅かだが安心した笑みで一言放った。

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