第6話

帰り道はいつも、旭奈と二人で帰る。


それが大切な時間だと思っているのはこの世界できっと俺だけだ。




「コンクール、どうしようかな…」




ぽつり、隣で呟かれたその言葉に、俺は視線を向けるだけで返事はしなかった。




「祐人は出すんだよね」


「…そうだな」


「私、祐人の絵好きだから今度こそ入賞して欲しいな」




佳作よりももっと良い賞ね、旭奈は笑って言った。




いつも思う。


旭奈は俺の絵のどこが好きなのだろうか。



毎回当たり前のように賞を貰っていた旭奈の感性は俺にはよく分からないけれど、俺の絵よりも俺自身を好きになって欲しい。


教師と生徒という不毛な恋より、もっと身近にある恋をして欲しい。


そんなものは俺のエゴにすぎないのだが、誰しも好きな人には振り向いてもらいたいものだろう。





「旭奈は、水彩描かないのか?」




俺の問いに、旭奈はちらっとこちらに目を向けたが直ぐに前を向き、笑った。

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