第4話

「そうだ、二人に話があるんだった」




旭奈と話していた先生は突然思い出したように言い、手元にあったクリアファイルの中を探りだす。


何が出てくるんだと俺達はそれを見守っていると、一枚のプリントが取り出された。




「今度コンクールがあるんだけど、出すよね?」



これが最後になると思うんだけど。



先生は俺達、特に旭奈に向かってそのプリントを見せながら問うた。




“最後”か。


思い耳を澄ませば、蝉の鳴く声と共に運動部の大きな掛け声や、吹奏楽部の合奏をしている音がどこからか聞こえてきた。


皆、“最後”に向かって必死なんだ。




「私は出さないかなー」




音を聴いていると旭奈は笑って先生に答えた。


その笑みはどこか、寂しげだった。




「本当に?最後だよ?」


「うん。いいです」


「僕は描いて欲しいと思っているんだけど…」




先生は言い、また眉をハの字にさせ、未だに定位置──窓際の列の前から四番目──に座っている俺に、ちらっと目を向けた。


そして、俺はキャンパスノートを閉じて二人の元へ行く。

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