第7話 血のポーション
冒険者ギルドからかなり離れた小道まで走り先ほどの2人の男が追いかけてきていないことを確認すると緊張の糸がきれその場にへたり込んだ。
剣を使った訓練を受けたことは聖騎士見習いの時に数えるのも馬鹿らしいほどあったが鞘をつけていたとはいえ本当に人に使ったことはない。初めての経験だった。
心臓がバクバクとなっているのはかなりの距離を逃げてきただけでなく緊張も合わさったものだ。かなり息苦しい。
胸に手を当てながらなんとか深呼吸をする。
「大丈夫かい?」
「え?」
頭の上あたりから声がかけられる。
そういえば酔っ払いを助けたんだった。
人生で初めて体験した出来事に気が動転していたせいで目の前にいる酔っ払いのことを完全に忘れられていた。
まだ完全に息は整っていないが聖騎士見習いの時、聖騎士として大切だと耳にタコができるほど聞かされ練習させられた笑顔を頑張って作り顔を上げる。
赤い目。
モンスターを思わせるような縦に細い瞳孔をしている。
あれほど荒々しくしていた息が止まった。
なぜ息が止まったのか。それはシャルロット本人にもわからなかった。
息だけでなく体が止まり、そして脳が考えるのを放棄していた。
「うーん思ったより全然平気そうだね!いやぁ僕のせいで君みたいな可愛い女の子が怪我をしたとあってはこの先胸をはって生きていけないからね。本当に良かった!」
男は一気に喋り出す。
それと同時に止まっていた脳と体は先ほどと同じように動き出した。
安堵の息をとりあえず出す。
やっと完全に緊張がほぐれたのかはわからないが気前よくシャルロットの可愛さについて喋り始めた男に怒りが湧き出てきた。
「本当にどうしてあの人たちに喧嘩を売ったりしたんですか!?あのまま私が助けなかったらあなたは殺されてましたよ!!」
怒り任せに男を怒鳴りつける。助けてもらったのは自分ではないかという思いを棚に上げて。
「いや〜僕一応腐っても冒険者だからね!困ってる人を助けるのも仕事のうちだよ。それに最近ああいう奴も増えてきてたから灸を据えてやろうと思ったんだよ」
灸を据えるどころか殺されそうになっていたくせに。
減らずぐちが減らない男だ。
思い切り殴られて血もまだ乾いていないのに。
そう思いながら男の顔を眺める。
先ほど顔を見た時は目が赤かったようだが殴られた時の充血が治ったかのか黄緑がかった瞳孔に戻っていた。また口元も切れているだが思い切り殴られたにしてはかなり軽症だ。血も止まりつつあった。
「まー確かに武器を抜いた時はやばいっ!てっちょっと思ったのは内緒だけどね。女の子を助けるつもりが助けられちゃったのかな。」
こちらのあきれた目に嘯きながら男は口元の血を指で掬いながらいった。
「ならお礼はしないとね」
男は血を擦った指の手とは逆の手で腰につけたバッグを探る。
ガサゴソと探ったのちに出てきたのは透明な水の入った瓶だった。
男は瓶の蓋を開けて自分の指についた血を垂らす。
そして元通りに蓋を閉じ何度も瓶を振り中身をかき混ぜた。
満遍なく血が水に混ざるとこちらにそれを手渡した。
「はい。ハイ・ポーション」
なんのギャグだ。
「これ困ったら使うといいよ。指が落ちたぐらいの傷ぐらいだったらすぐ治るから。冒険者になるといろんな怪我をするからね。持っとくと便利だよ」
「は、はぁ」
ハイポーションとやらを受け取る。
「じゃ他にも何か困ったら声かけて。だいたいギルドか市場のほうにいるからさ。」
それだけ言うと男は手を振りどこかへ立ち去ってしまった。
一体なんなのだ。
言うだけ言ってどこかへ行っちゃうなんて。
先ほどの男たちが怖くないのだろうか。
もしくはただのバカなのか。(次は助けまい)
というか・・
このキモいのどうしよう。
ハイ・ポーションとかいう男の血入り水びんは。
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