第6話 鬼さんこちら

静寂が場を支配した。

先ほどまで強気だった男たちは惚けた顔をして固まっている。

自分に何が起きたのかわかっていないようだった。

音の主であろう木と金属でできた酒用のジョッキはカランカランと地面で回りやがて止まった。

やっと先ほどの音が自分の頭に酒用のジョッキが飛んできてぶつかった時のものだと理解した顔に傷のある男は腐っても冒険者らしく戦闘の構えをとった。それに釣られて、もう1人の男も構えをとった。

「おい!!今俺の頭にものを投げたのはどこのばかだ!!」

怒りによって血管が浮き、顔を赤くしながら傷の男が怒鳴った。

「あれ〜〜ごめ〜〜ん手が滑っちゃったみたい〜〜」

そう言いながら床で酔い潰れていた男が起き上がろうとしていた。

「テメェ!!」

傷の男は机に手をかけながら起き上がっていた酔っ払いを力の限りで殴り飛ばした。

立ち上がってもいなかった酔っ払いは殴られた勢いで机とぶつかりながら奥へと転がっていく。

「ごめんっていったじゃ〜ん」

思い切り殴られたにも関わらず反省の色が見えない酔っ払いの謝罪は2人の男の怒りをさらに加速させた。傷の男が転がった酔っ払いの胸ぐらをつかみ無理やりに立ち上がらせ、もう1人の男は腰にあった短剣を抜きいつでも切り付けられるように機を伺っている。

この酔っ払いは殺される。

そう思った。

冒険者ギルドにいるということは酔っ払いも冒険者なのだろう。

ただ朝から依頼をこなすために切磋琢磨している冒険者たちとは違い昼間なのにも関わらず飲んだくれているような冒険者だ。言うなればドロップアウトした側の人間。

聖騎士見習いをやめた私と同族だ。

彼を助ける義理はない。

今私は助かったばかりなのだ。

2人の男たちがあの酔っ払いを殺したら次の獲物である私に向かってくるだろう。

ならすぐにこの場を離れなければいけない。

冒険者ギルドに正式参加していない私のことを助けてくれる人がこの場にいるとは思えない。逆に冒険者である酔っ払いを殺すことをギルドは傍観したりはしないだろう。

この場で一番危険なのは私なのだ。

だから逃げなくちゃいけない。

逃げなくちゃ・・・


また何もできないの?

また人を見殺しにするの?

なんのために聖騎士になるのを諦めて冒険者になるの?

ああ


助けないと!!!

短剣を鞘をつけたまま腰から外す。

「うあぁああ!!」

奇声を上げながら背を向けた短剣を握る男の頭に打ち付ける。

男は突然の奇襲に対応できなかったのか打ち付けられた勢いのまま前のめりに倒れ込んだ。それを横目にしながら酔っ払いの胸ぐらを掴む傷の男の元へと近づき股間を思い切り蹴り上げる。グニュっと足先が男の股にめり込む。

あまりの痛みに傷の男は声を上げることすらできず股間を抑えながら地面へと沈み込んだ。

「逃げますよ!!!」

酔っ払い男の手を無理やり引っ張りながらがむしゃらに走る。

冒険者ギルドのドアを張り飛ばし、大通りへと出る。

そして後ろを振り返ることなくただまっすぐ全力げにげた。

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