第3話 聖騎士の仕事

村長を縛首しばりくびにする。

隊長はそう宣言した。

驚き目の前にたたずんでいた村長を見たが

村長も受け入れたかのようにただ目を伏せるだけだった。

凄まじい脱力感が体を襲った。

村長も理解している。

見せしめなのだ。

税を支払うことができなかった村がどうなるのか。

代表者を1人見せしめとして殺す。

そうやって他の村人、もしくは周辺の村に圧力をかけるのだ。

ただ見せしめとして殺すと土地を収める司教、ひいては崇める神に

憎しみがむかう。それを回避するために罪をつくり処刑する。

正しさを示すために。

脱力感によって体が動かない間にも

周りの聖騎士や見習いたちは村長の処刑のための準備を始めた。

資材などがあるわけでもないので井戸の桶を吊るす屋根に新しく紐をくくりつけただけだが。他のものは家にこもっていた村人たちを呼び集めていた。

本来なら手伝うべきだったのかもしれないが体がうまく動かせずその場に立ち尽くしてしまった。隊長や他の聖騎士たちはその様子を一瞥いちべつしただけで咎めることはなく自分の仕事をしていた。

村人たちが集められると村長の処刑が行われた。

この時の記憶はほとんどない。

唯一残った記憶は、集められた1人の子供がこちらを諦めと不条理と憎しみと悲しみを孕んだ目でこちらを見ていたということだけだった。

村に来るときはあれだけ苦しく辛かった道も帰る時は何も感じなかった。

何も考えずに歩いた。

そして村を出て7日目に街へと帰ってきた。

街を囲みモンスターや他の国からの進軍を妨げる壁と門を見た時

何か湧き立ってくるのを感じた。

神殿へと向かい仕事の報告をしたのちにすぐにある場所へと向かった。

見習いは鍛錬の一環として共同で生活している。

それは自力で生きる術を学ぶためでもあり仲間意識を深めるためでもある。

そのため親元へと帰ることは禁止されている。

規則を破るとこれまた仲間全員で罰を受けなければいけない。

しかしそのことに頭を悩ませている余裕はなかった。

走って道を通る。

荒れ果てた土地で農業を営み、日照りと税に苦しむ村人たちとは違い

道を歩く人々は笑顔で溢れている。

そんな人々の間をすり抜けながら住宅街へと進む。

走る。

走る。

走る。

見慣れた風景が出迎え、見慣れた道を進む。

見慣れたドアを開け、咳き込む。

走りすぎたようだ。

息を落ち着かせながら顔を上げるとびっくりした表情をしたお母さんがいた。

「あんた一体・・

言い終える前にお母さんへと抱きついた。

涙が止まらず嗚咽も止まらなかった。

お母さんは驚いていたようだったがそのまま頭を撫でてくれた。

ひとしきり泣くと疲れて眠ってしまった。

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