2.家族
「あれ? 志奈子痩せた?」
ある日の朝食時、姉の麻沙子にそう尋ねられた。
姉は三歳年上で私と同じく実家暮らしのOLだ。
「最近ちょっと太り気味だったけど、何かスルスル体重が落ちたのよね」
「ふーん。あっそ」
そんなに興味がないならわざわざご指摘いただかなくても良かったのに。
「お母さん、今日の夕ご飯要らないから」
「あー、はいはい」
「何よお姉ちゃん、また合コン?」
「うるさいわねぇ、婚活よ婚活!」
姉は合コンに余念がないパリピだ。婚活と銘打っては週に二回は合コンに参加している。合コンに来るようなチャラい男、私なら勘弁願いたいものだけど。
私と姉は性格が真逆だ。私は人見知りで奥手。姉は陽キャでパリピ。でも、ちゃんとした彼氏がいるのはいつも私で、姉はその場限りのいわゆるワンナイトの相手が多いみたいだった。
「志奈子は今付き合っている人はいないの?」
姉がニヤニヤとした顔で迫って来る。
「いたけど最近別れたばかりよ」
「へぇぇぇ。何で?」
「太った私が嫌だったんじゃない?」
そうすると姉は破顔一笑というような表情で「あらぁ、随分狭量な男ねぇ!」と言った。その姿はとても嬉しそうだ。
「お姉ちゃんこそ、誰かいないの?」
「……」
姉は都合が悪いとすぐに黙る。最悪の逃げ方だ。
姉は即座に私に言い返せるほど頭の回転が速くない。私は進学校を卒業した後それなりの大学に行ったが、姉は三流高校を出てそのまま就職したのだ。いわゆる、偏差値とIQでは私には勝てないというやつだ。
いつも姉に揶揄われている私としては、それだけが唯一心の支えだった。私は姉よりも賢い。その事実があれば多少の姉の暴挙は許してあげられる。
「あんた達、会社に遅れるわよ。早く食べちゃいなさい」
「「はーい」」
「ところで麻沙子、あんたこの封筒宛先間違いしたでしょう。うちに返送されて来ていたわよ」
「ああ、そこに置いておいてよ。後で確認するから」
「それにしてもあんたは小さいころから本当に丸っこいクセ字を書くわねぇ。大人になったら少しは字が綺麗になるかもしれないと思っていたけど、もうお母さん諦めたわ」
「何なら志奈子みたくペン習字でも習おうか? 字なんて読めればいいと思うけど」
「あら、お姉ちゃん。スマートな字を書く事は社会人としてのマナーよ」
「ふんっ。少しくらい大きな会社に総合職で入ったからって偉そうに。私は私の主義で仕事するから別にいいわよ。今はデジタル時代で文字なんてほとんど書かないし!」
姉は、あの子供っぽい字でビジネス文書を書いているのだろうか。少なくとも私の職場にそんな字を書く人はいない。姉は小さな会社の一般事務員だから、あまりサインをする事もないのかもしれないけれど。
母はいつまでもそんな姉を心配している。父は私達姉妹のやり取りを黙って聞きながら新聞を読んでいる。
いつもの朝、いつもの行動。いつもの家族。いつもの会社、そしていつもの私。
いつも私はこのままだと思っていた。そう、彼に出会い、とんでもない事態に直面するまでは。
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