3.運命の人
彼、後藤
彼は私の職場に異動して来た地方営業所のエースだった。
「今日から本社勤務になりました後藤晃教です。こちらのペースに早く慣れるように精一杯頑張ります。皆様、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
第一印象は、「何て丁寧な挨拶をする人なんだろう」だった。『ご指導ご鞭撻のほど』って、芸能人の結婚報告でしか聞いた事なかったわ。
私は彼の指導係になった。同い年だったのもあって、すぐに意気投合し、お互いに好意を持つようになった。出会って半年で私達は結ばれた。彼はきっと運命の人なのだ。そう思った。
毎週末を共に過ごし、色々な所に出掛けた。外食も増えた。そのせいか、私は半年で十キロほど体重が増えてしまった。
「でも、美味しそうに食べている志奈子を見るの、俺は好きだな」
晃教は私が太ったのを意にも介さないようだった。だから私は安心してしまっていた。すでに二人目の彼の時に迎えた五十三キロを超えて五十五キロだというのに。
「それより志奈子、千葉県に美味しそうなラーメン屋を見付けたんだ。今度旅行がてら行かないか? 一泊で……」
彼といる時間はとても楽しかった。尊かった。だから私は体重が増えて行くのを気にも留めなかった。どんどんと洋服がサイズアウトしていくのも、「またか」くらいに思っていた。
そうしたら、一年後には六十五キロになっていた。すっかりぽっちゃりの部類だ。
「女性はちょっとふくよかくらいが丸みがあってふくふくで触っていて気持ちが良いよ」
晃教はそれでも意に介さないようだった。私は段々と自分のお腹のたるみ具合が気になって来ていたのだけど……。
それでも変わらない彼の愛に、私は感動して、どんどんと晃教に夢中になっていった。そして、いつの間にか彼の部屋で半同棲みたいな形になっていた。
「あんた、同棲するくらいなら結婚しなさいよ」
そう母に言われて、私達は早々に籍を入れる事になった。お付き合いを始めてから一年半でゴールインだ。
「志奈子、あんたその体型でウェディングドレスを着る気?」
そう茶々を入れて来たのは姉の麻沙子だ。
「さすがに私もチンドン屋みたいだと思うから、せめて和装にするつもりよ」
「へぇぇ。それでもお式するんだ。その体型で!」
負け犬の遠吠えとはこの事か、と私は思った。姉は未だに独身で、まだ合コン三昧の日々を続けていた。最近では戦力外通告……要するに、誘われる機会も減ったらしいのだが。
私と晃教はこじんまりとした結婚式を挙げた。披露宴も小規模にした。お色直しでも私は和装にした。ドレスよりお腹が隠れて良いだろう。
「綺麗だよ、志奈子……」
晃教はそれでも私を褒めてくれた。私は幸せの絶頂にいた。
でも、それから私を本当の悲劇が襲ってきた。
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