不審者編
ある大学の体育館の隣にあるベンチで二人の男が座っていた。
「この前、夜中に公園行ったら黒いロングコートを着た人に会ってん」
右手に赤いきつねを持っている男が話しかけた。緑のたぬきを持っている男は冷静に返事をする。
「なんやねんその話の入り方。そいつ怪しすぎるやろ」
「ロングコートくらい着るやろ? スーツにはロングコートやし」
「今はもう初夏やぞ。最近はジャケット着てる人もおらんわ」
「まぁそこはええねん。とりあえず、その人に話しかけたんや」
「なんでやねん」
「別に話しかけてもええやろ」
「ちょっと待てや。夜中の公園に黒のロングコートって不審者やないか。むしろ逃げなあかんやつや」
「不審者は失礼やろ。それはその人に謝らなあかんわ」
「不審者ちゃうかったらなんやねん」
「ちゃんと理由があるんや。まずはちょっと聞けや」
「……そうやな。とりあえず聞いてから判断するわ」
「そうそう、そういう態度が大事やねんで」
「うるさいねん。はよ続き話せや」
「まぁまぁ慌てんなや。それでな、見知らぬ人に話しかけんのって勇気いるやん」
「その人には特にな」
「俺こう見えて人見知りやし……なっ?」
「突っ込み待ちすんなや。全然話進んでへんねん。今のところロングコートの人が出てきただけや」
「まぁまぁまてや。ほんでな、話しかけたのにも理由があんねん。その人はベンチに座ってこんな感じでうなだれててん」
「真っ白に燃え尽きた感じやな」
「これは心配するやろ? 次の日死んでたとかやったら寝覚め悪いし」
「心配はするかもしれんけど、俺やったら通報するな」
「すぐ通報はあかんやろ。警察って忙しいねんで。だから俺は、大丈夫ですか、って声かけてん」
「いや、これはほんまに通報した方がええ案件やからな」
「まぁまずは聞けって。そしたらな、その人がこっち見てぎょっとして、大丈夫です、って答えてん」
「なんでぎょっとすんねん」
「たまたま同じ服やってん。町中でもあるやん。ユニクロがかぶるなんてしょっちゅうあるし。親近感わくやろ」
「……まぁええわ。とりあえず話聞こか」
「そんでな、大丈夫ですかって聞き方が悪いことに気づいてん。大丈夫ちゃうかっても大丈夫って答えるって法則あるやろ?」
「まぁ日本人はそう答えるから聞き方が大事やっていう話はあんな」
「だから今度は何かあったんですか?って聞いてん。そうしてるうちにな、仲良くなって悩みを聞いたんや」
「よう悩み聞けるくらい仲良くなれたな」
「めっちゃいい人やったからな。それで、コート着てたんは下になフリフリの可愛い服着てたからやってん」
「男やんな?」
「せやな」
「不審者やんけ」
「偏見はあかんやろ。男が可愛い服着てもええやん」
「でも黒のロングコート着てんねやろ?」
「理由があんねんて。その人はな、今まで普通の男として暮らしてきて、妻もいて娘もいて順風満帆な生活してきてん。でもな、可愛い服が着たかってん。女の子らしい姿に憧れててん」
「性同一性障害なん?」
「ほら、そういうこというやろ? ちゃうやん。そういうことちゃうやん。男が男として可愛い服着ててもええやん。ただ、自分でも似合わんことがわかってたからコートを着ててん。誰もおらんところで可愛い服着て歩こと思て、勇気が出んかったんや」
「それは……複雑な心境やな」
「やろ? それでも不審者やっていうんか?」
「いや、これは俺が悪かったわ。不審者ちゃうかった。お詫びして訂正するわ」
「ほらみい。偏見で見んのは良うないで。お前はそういうとこあるから気いつけや」
「わかったわ。それで気になるんやけど、聞いてええか?」
「どうしたんや?」
「お前はなんで夜中の公園で黒のロングコート着てたんや?」
「……まぁいろいろあるやん」
「途中から俺の頭の中では不審者二人が公園のベンチで話してる映像やったんや。でもそれは偏見やったわ。けど、疑問は消えへんねん。なんでロングコートやったん?」
「これには深いわけがあるんや」
「深いわけってなんやねん」
「……大学の講義で犯罪心理を学んだんやけどな、そこに露出狂の心理が書いてあってやな。それでどういう感じなんやろと思って」
「お前が不審者やないか!」
「歩いただけでなんもしてへんって!」
「通報や!」
「通報はあかんやろ!」
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