妖精編
ここは、とある大学内の第一学舎四号館前のベンチ。二人の大学生が座っている。
「妖精っていると思う?」
右手にサンミーを持っている男が話しかけた。100%りんごジュースのパックを手にもっている男は冷静に返事をする。
「いるやろ」
「そうや、おらんと思うやろ、ってちょっと待てや」
「なんやねん」
「なんやねんって妖精やぞ。いるわけないやんって言うとこやろ」
「いるでええやん」
「ちゃうやん。いるわけないやん、から始まる話やねん。いるやろ、から続く話用意してるわけないやん」
「そんなん知らんやろ。おるもんはおるでええやん」
「ええことないわ。どこにおんねん」
「どこって、そうやな。有名どころやったら『ねばーる君』やろな」
「その名前どっかで聞いたことあるな」
「茨城県におんで。あとは船橋市のふなっ――」
「もうええって。わかったわ。それご当地ゆるキャラやないか。妖精ちゃうやろ」
「ねばーる君は納豆の妖精やぞ」
「やめろや。妖精のイメージ崩れんねん。そういうことちゃうやろ。あれはゆるキャラや」
「ゆるキャラであり納豆の妖精やな」
「自称納豆の妖精やろ」
「じゃあ『夢ちゃん』やったらええんか?」
「誰やねん」
「ゆるキャラであり川の妖精やな」
「ほんまに誰やねん。てか結局ゆるキャラやん。自称川の妖精やん」
「自称ちゃうで。市のゆるキャラやからな。つまりは国が認めた川の妖精や」
「流行に乗ろ思て作ったけど有象無象に紛れて認知度も上がらんかったみたいなゆるキャラよう知ってたな。いや、ちゃうねん。そういう話ちゃうねん。ゆるキャラは作られたもんやん」
「作られたからなんやねん。そこには人の想いが込められてんねんやぞ。コストはかけられへんけどPRはせなあかんっていう広報部のジレンマ――」
「ちょっと待てや。わかったから。そういうリアルな話は求めてないねん。もっとファンタジーな妖精の話したいんや」
「なんや、そっちやったんか」
「そっちしかないねん。妖精言うてゆるキャラが出てくるなんて誰も思わんわ。妖精言うたらファンタジーや。羽があってキラキラしながら飛ぶような妖精のイメージあるやろ」
「そういうことやったら千葉に行ったらええんちゃうか」
「なんで千葉やねん、ってあれか。東京のふりした夢の国か。そうやな、あそこやったらパレードでパンのことが大好きなピクシーが、ってちゃうやろ!」
「妖精出てくるやん」
「ちゃうって。こんなん言うたらあかんかもしれんけど、ふりしてるだけやん。ゆるキャラと同等やで。飛ばへんし完全に妖精の縮尺ちゃうやろ。ほんまは手のひらサイズやのに、あれはむしろ近くにいるパンよりでかいねん」
「というかなんでパン呼びやねん。せめてピーターで呼んだれや」
「ピーターは有名なラビットと被るやろ。そんなことはええねん。本物のファンタジーな妖精はおらんやろってことを聞いてたんや」
「じゃあトントゥならええんか?」
「トントゥ? また何か変なん出てきよったな」
「全然変ちゃうわ。トントゥはいろいろやってることがあったんやけど、最近はサンタクロースの手伝いをしてるみたいやな」
「なんなん。トントゥのこと友達みたいに言うやん。サンタクロースの手伝いする妖精っているんやな。って、ちょっと待てや。そもそもサンタクロースも妖精みたいな存在やんけ。実在せんやろ」
「なんや、サンタクロースを否定すんのか?」
「えっ? いや、否定してるわけちゃうで? でもだいたい中学生までには気づくやん。何がとは言わへんけど真実に気づくやん」
「俺は三種類のサンタクロースがおると思ってんねん」
「い急にどうしてん」
「最初はもちろんオリジナルのサンタクロースやな。まぁここはもう説明はいらんやろ」
「そりゃ説明はええけど、なんかスイッチ入ってるやん」
「次が公認サンタクロースやな」
「まぁとりあえず聞こか? 公認サンタクロースってなんや?」
「国際サンタクロース協会に認められた人が公認サンタクロースになれんねん。厳しい試験があるんやけどな」
「サンタクロースに厳しさいるん? 子供に優しい気持ちを持ってたらええんちゃう?」
「それだけやったらイメージが守れんやろ。装備込みで体重120キロ以上の恰幅の良さも、煙突に登って家に侵入する運動神経も必要や」
「太らせてから危険なことさせるんはエグいやろ。サンタクロース目指すやつに何やらせてんねん」
「それにやな、英語かデンマーク語、あとサンタクロース語の試験もあるんや」
「キツってかサンタクロース語ってなんやねん。ホッホッホッとか言うんか?」
「正解」
「言うんかい! いや、ほんま何やらせてんねん。アホなん?」
「しかもクッキーとミルクの早食いもせなあかんねん」
「アホやん。その試験考えたやつ誰やねん」
「そんな難関試験を突破して公認サンタクロースになるわけや」
「まずその試験考え直させえや」
「そんで、最後のサンタクロースは大人のみんなや。みんな誰にも言われてへんのにサンタクロースになろうとすんねん。それに北米の航空宇宙防衛指令部がサンタクロースを追跡してるデータを公表するレベルやぞ。誰もがプレゼントの瞬間は本物のサンタクロースになれるし、みんなでサンタクロースを支持する、そんな概念的な存在でもあんねん。それにな、サンタ――」
「わかった、もうわかったわ。サンタクロースはおる。それは十分わかった。そんで、結局トントゥはなんなん?」
「トントゥはサンタクロースのお手伝いやって言うてるやん」
「そうやなくてトントゥがいるっていう理由を聞いてんねん」
「そらサンタクロースがおったらトントゥもおるやろ」
「サンタクロースはおる、トントゥはサンタクロースのお手伝い、つまりトントゥはおるって三段論法やな。雑すぎるやろ。サンタクロース説明してた熱量どこいってん。トントゥがどんな妖精なんかもわからへんねん。なんか説明ないんか」
「元々トントゥはサウナの妖精でサウナにいる人を見守ってんねんて」
「なんで妖精にそんな設定つけんねん。妖精のイメージ崩れるわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます