第12話 魔女の血
「お、おい――、リタ待てって!」
俺は慌ててリタの腕を掴む。彼女は俺の制止を振り切ろうと、必死に腕を振りほどこうとするが、その力は弱々しいものだった。
「離して! あそこには……、あそこには……」
そう言いながら膝をそう言いながら膝をつく彼女の表情は悲痛に満ちていた。俺はそんなリタを再び抱き寄せる。
「落ち着けって、今行ってもまた殺されるだけだ!」
「逃げたから、逃げたから燃やされたんだ。だから、戻らなきゃ。戻らないとわたしの居場所がなくなっちゃう。帰る場所が――」
俺は黙ってリタのことを優しく抱きしめた。彼女がどんな苦痛を今まで受けてきたのか分からない。まずは落ち着かせてあげないといけない。
「落ち着いて、深呼吸するんだ。息を吸って」
俺の言葉にリタはゆっくりと深呼吸をし始める。俺はそのままゆっくりと彼女の背中を撫で続けた。やがて、彼女は落ち着きを取り戻すと顔を上げた。
その瞳には涙が浮かんでいた。
「ごめんなさい……、取り乱して」
「気にするなよ、でも、もう村に戻るのは無しだ」
俺がそう言うと、彼女は静かに頷いた。しかし、その表情にはまだ迷いがあるように見える。あの村に彼女を縛り付けている理由があるはずだ。
「聞いてもいいか、あんな目にあってまだこの村に戻らなきゃいけない理由を」
俺はリタに問いかける。彼女は小さく頷いて口を開いた。
「あの家の地下にわたしの家族の死体があるんです。わたしが村の人に血を渡さなければ、家族を魔獣にするぞと……」
「そんなことができるのか?」
「魔女の血には、この世に存在するすべての生物を魔獣に変える力があるんです。それはたとえ屍になっていようが変えられます」
俺は思わず息を呑む。リタは自分の命が狙われているにもかかわらず、あんな目に遭ってまで家族の死体を守り続けていた。
俺がリタを助けたことによって、その約束は守られない。もしかしたら、既にリタの家族は魔獣に変えられてしまったのかもしれない……。
「ごめん」
「なんで、アルが謝るんですか……」
助けたことを後悔はしていない。だけど、リタの頑張りを無下にしてしまったのは事実だ。だから、俺は彼女に謝罪をした。
悪いのはこんなことをする村の住民だ。
「取り返そう、リタの家族はちゃんとした場所で、ちゃんとしたところに埋葬してあげるべきだ。魔獣なんかに変えられていいわけがない」
リタは驚いた表情を浮かべていた。
「アルは一体何者なんですか……?」
「ただの旅人だよ、今はね」
自分が何者なのか分かっていない。一度死んで目が覚めたら草原で目が覚めて、テイマーだのなんだのよく分からないままここにいる。
だけど、この子を助けてあげたいという気持ちだけで今は十分だ。
「カラドリウス!」
俺がその名前を呼ぶと、嬉しそうに目の前に現れて、俺の頬を舐める。
本当に人懐っこいやつだ。この可愛らしい生物が、あの集落の人間以外に懐かないって言うんだから不思議な奴だと思う。
「この子を助けてあげたい。力を貸してくれ!」
「キュイ!!」
そう言うと手の刻印が光を纏い、カラドリウスの全身を包み込む、その姿は集落の魔物を追い払った時に一度見た本来の姿。
何度見ても圧巻で、神々しさすら感じる。
――神獣、カラドリウス。
「さぁ、リタの家族を取り戻しに行こうか」
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