第11話 束縛
「でも、わたし村に帰らなきゃ――」
リタと名乗った少女は俺に名前を告げるやいなや、洞窟から出ていこうとする。俺はそんな彼女の手を咄嗟に掴んでいた。
「待て、待てって……。戻ったらまた襲われるだけなんだぞ?」
「それでも、戻らなきゃいけないの」
「どうして?」
俺の問いに彼女は答えようとしない。ただ、その瞳は何かを決意したような強い意志を感じさせるものだった。
もう話は終わりだ、と言わんばかりに彼女は手を振りほどこうとするが、俺はそんな彼女を引き留めるように言葉を発する。
「なら、俺も一緒についていくよ」
「……えっ?」
俺の言葉を聞きリタが驚いた表情を浮かべる。彼女の瞳はなぜ俺がそんなことを言うのか理解できないといったものだった。
「いや、でも……」
「なぜ、君があの村に戻らなきゃいけないのか理由は聞かない。それでも、あんな目にあっていた女の子を見過ごすことはできない」
その言葉に、リタは戸惑っているようだった。俺はそんな彼女に畳み掛けるように言葉を続ける。
「それに、一人じゃ不安だろ。 一緒に行こう」
俺はそう言うと手を差し出し続けた。彼女はしばらく考え込んでいたが、やがて小さく頷いてくれた。
「で、とりあえずさ、俺の着てた上着を着てくれると助かるんだが……」
斧で斬りつけられていた彼女は衣服を着ておらず、素肌が露出している状態だった。さすがに、目のやり場に困るというかなんというか……。
「あっ、そう……、そうですよね」
リタは自分の姿に気づいたのか、恥ずかしそうに顔を赤らめると、俺の上着を受け取る。そして、そのまま羽織った。
俺たちは洞窟を後にすると、森の中から周囲の様子を伺った。黒づくめの連中の姿はとりあえず見当たらない。
俺たちは、村に向かって歩き出した。
「なあ、リタはいつからあんな目に遭っていたんだ?」
俺は歩きながら、隣を歩いている彼女に問いかける。リタは少し躊躇うような仕草を見せたが、やがて口を開いた。
「一年前です……、わたしはあの村で道具として扱われてました。魔女の血を取り、魔物を操り、魔物を売りさばく。そんな村で、わたしは育ちました」
リタは淡々とした口調で話を続ける。彼女が語る話はあまりにも非現実的すぎて俺の理解が追いつかなかった。
「黒づくめの人の正体は、あの村の住民です。わたしをどんだけ斬りつけても死なないというのも知っている。彼らは魔物を操るために、血を欲している。自分たちの利益のために」
「リタの家族はどうしたんだ?」
「殺されました。わたしが生まれたせいで、家族はみんな殺されました。そして、わたしは毎日のように十字架に張り付けられて、斧で斬られて、血を流して、魔獣を操るための道具としてずっと使われてきました」
リタは悲しそうに目を伏せる。彼女が歩んできた人生を考えると心が痛くなった。それはまるで地獄のような日々だったに違いない。
家族を殺され、不死身であるとはいえ痛みはあるはずだ……。
なら、なぜ彼女は村に戻ろうとするのだろう。
「リタは村に戻って何をするつもりなんだ?」
「それは――」
彼女が何かを言いかけた時、突然大きな爆発音が鳴り響いた。音のする方を見ると村の中心部分から火の手が上がっているのが見えた。
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