第13話 怒り
「な、なんですか……、この大きな鳥は……」
「神獣カラドリウスっていうらしいぞ」
「神獣……!?」
リタは目を丸く見開いている。まあ、そうだよな。いきなりこんな大きな生物が現れたら驚かないはずがない。
「アルは一体……」
「さっきも言っただろ。俺はただの旅人だって」
そういえば、カラドリウスにまだ名前をつけていなかったな。これから一緒に行動するなら名前くらいあったほうが何かと便利だよな。
「よし、今日からお前は『カルラ』だ!」
俺がそう言うと、カラドリウス――カルラは嬉しそうに「キュイ!」っと鳴いた。カルラを本来の姿にしてしまった以上、潜伏することは難しい。
ならば、目的の場所に攻め込むしかないだろう。
「リタ、燃えてるのは君の家で間違いないのか?」
「分からない。でも、わたしの家がある方角なのは間違いないと思う」
俺とリタは走りながら黒煙が上がっている方向へと向かっていた。
後ろからついてくるカルラの足が地面につく度に地響きが鳴り、やはりというべきかその音に気付いた黒づくめの男が広場に姿を現した。
「今更何をしに戻ってきたんだ、不死身の魔女よ」
「お母さんたちを返して!」
リタの叫びを聞いた男は乾いた笑みを浮かべた。その表情はただただ不快で、見ているだけで怒りがこみ上げてくる。
「それはできない相談だな。お前も分かっているはずだぞ、お前が逃げたせいでお前の愛する家族は化け物になっちまった。まあ、死体が化け物になろうが――」
「黙れよ……」
「なんだよ、部外者が口を挟んでくる――」
「黙れっつってんだ!」
込み上げてくる怒りをグッと抑えてリタの前に出る。手の刻印が光を纏っている。頭の中にスッと単語が浮かんでくる。
「我が名において、万物を滅する力を顕現せよ。火を放て、カルラ!」
「キュイ!!!!」
俺の声に応えるようにカラドリウスが鱗に隠れていた大きな翼を広げる。すると、羽から巨大な火球が現れ、黒づくめの男に向かって放たれた。
「な、何!?」
男は咄嗟に何か呪文のようなものを唱えて、地面を盾のように変化させた。しかし、そんな防御は意味をなさず、火球が直撃すると同時に爆発音が響き渡った。
そして、あたり一面に砂埃が舞い上がる。
カルラの一撃を喰らった男は地面にカルラの一撃を喰らった男は地面に倒れ込み、呻き声を上げている。体からは煙が上がっているが、生きてはいるだろう。
「おい、起きろ。目を開けろ。殴るぞ」
「ひぃいい、お、お前何者なんだ……。こんなの、こんなの聞いてないぞ」
「いいから答えろ。リタの家族に何をした?」
俺は男の胸倉を掴み、そう問いかける。男は諦めたように口を開いた。
「あぁ、血を……、魔女の血を飲ませた。そう……、すれば、お前の家族は魔獣になるんだよ……。あはははは!」
男は大口を開けて高笑いをする。その瞬間だった――、カルラが地面に爪を立てる、地面はメキメキという音を立てて、亀裂が入っていく。
「カルラ、落ち着け」
俺の声にカルラは爪を引っ込める。これ以上は時間の無駄だろう。現状は実際に見てみないと分からない。
男は放り投げられた後も壊れた人形のようにずっと笑っていた。リタはそんな男を見て、唇を強く噛み締めている。
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